両親の事業失敗による借金5,000万円を返済するため、17歳にしてマグロ漁船に乗ることになった筆者。初めての航海で、他の船員に教えられながら仕事をこなしていきます。マグロ漁船員の仕事とは、一体どういったものなのでしょうか。菊地誠壱氏の著書『借金を返すためにマグロ漁船に乗っていました』(彩図社)より、詳しくみていきましょう。
親の借金5,000万円を返済するため…17歳の「マグロ漁船員」が最初に任された仕事“サメ殺し”とは【実話】
初めてのマグロ漁船…最初に任された仕事は“サメ殺し”
両親のアワビ養殖業が失敗し、5,000万円の借金を背負うことになった菊池家。
借金取りからは毎日催促の電話がかかってきており、気の短い父がそれに怒ってばかりの毎日でした。
そんななか、ヤンキーだった筆者は高校を中退。
借金を返すため、父のすすめで「マグロ漁船員」になることを決意します。
不安もあった筆者でしたが、同級生の見送りを受け、ついに初めての航海へ……。
初めての船では、仕事中はボースン※からいろいろなことを教わっていました。
※甲板長(こうはんちょう)のこと。
ボースンは身体も大きくてパンチパーマで顔も怖いのですが、性格は優しくて、常に中心にいる司令塔みたいな感じでした。
大波が来ると私を引っ張って「掴まれー!」と言って船に掴まっていましたが、ボースンは少しふざけていましたね。笑っていましたから。
マグロ漁船にはルーティーンのような決まりがあって、休憩から帰ってくると解剖の仕事をやらなくてはいけません。ブランを手繰る仕事が主ですが、その順番が来るまで3人くらい待機しています。順番待ちの人はマグロが釣れたら手分けしてマグロを引っ張り、鉤をかけて解剖まで行います。
マグロ漁船ではオールマイティにあらゆる仕事をこなせないと一人前とは認められません。何かできない仕事がある人間は半人前とみなされ、8分(8割)の給料しかもらえません。当然私も8分でした。
近海マグロ漁船ではとにかくサメが釣れます。大型のヨシキリザメがバンバン釣れるのでサメも解剖して、頭と内臓を除いてカメに入れておきます。ボースンがいつも包丁を持ってサメを解剖していたのを覚えています。
この船ではサメが来ると、大きな木のハンマー(カケヤといいます)を持ってきて、頭を叩きます。ドーンドーンと叩くと、サメも目をキョロキョロさせながら回転して逃げようとします。
私はこの仕事を与えられました。初めての担当は“サメ殺し”です。サメが来るとボースンは出刃包丁を持って、もう1人がカケヤを手にして頭を殴りつけます。
「おりゃー!」
ドーン! と一撃を与えますが、一度では効きません。サメも目を回しながら逃げるので何度も打ち付けます。そうして弱ったサメの頭をボースンが切り落とし、解剖を始めます。
「ちゃんと見てろよ」ボースンはそう言うと、まず腹を切りました。
真っすぐ綺麗にすーっと出刃を入れます。その後内臓の付け根を切って水をかけると、空いている人がデッキブラシでごしごしサメの腹の中を洗います。
ちなみにサメは頭だけになっても人を噛むので、顔を人に向けて投げては絶対にダメです。目玉に指を入れ、口を外側に向けて海に投げ込むのが正しいのです。
「さあやってみるか!」パンチパーマのボースンがいかつい顔で笑いました。今度は私の番です。
「おりゃー!」
サメが釣れたので私はカケヤで頭を叩いてサメを弱らせ、出刃包丁を持って恐る恐る背後に回り、頭を切りました。ノコギリのように何度も引いて、やっと切り落とせました。サメの頭は硬いのです。解剖はなかなか綺麗にはできませんでしたが、何とかできたので満足でした。
「今日からお前はサメ担当な」ボースンは笑ってそう言いました。
「はい! わかりました」
こうして私はサメ解剖を任されることになりました。
