ギャンブルとは無縁で、堅実な性格だった高野さん。しかし、ふとしたきっかけで競馬に手を出し、ビギナーズラックで大儲け。気づいたら、取り返しのつかない借金地獄に陥ってしまいました……。ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、「借金地獄」に陥った男性の実例をみていきましょう。

アパートから追い出されました…月収32万円“質素で堅実”だった33歳・都内在住の男性が「借金地獄」に陥ったまさかの理由【ルポ】
“競馬を楽しもう”…CMを目にした高野さんの「率直な思い」
会社にはお遊び程度で競馬をやっている人が何人かおり、大きなレースの前にはスポーツ新聞を見ながらああだこうだと話しているが、そういう話題には入らないように気を付けている。
テレビのバラエティー番組に人気ジョッキーが出ていたり、夜のスポーツニュースで明日は天皇賞、菊花賞という話題になったらチャンネルを変えるか、テレビの電源を切るかして目に入ってこないようにしている。
「つい先日も平成時代を回顧するみたいな番組があって、その中でオグリキャップの出現で競馬はギャンブルからスポーツに昇華したみたいなことを話していたんです。それは違うだろと思った。お金を賭けるわけだから博打だよ」
重賞レースが近付くと中央競馬会がテレビCMを流し、競馬を楽しもうなんて言っているが「ふざけるなよ、馬鹿」と思う。
「正社員で働いているから少ないけど賞与は出ます。去年夏の賞与は滞納した家賃を肩代わりしてくれた父への弁済と、今のアパートへの引っ越し代でほとんど使ってしまいました。副業の収入を生活費の足しにすれば十分なので、去年の暮れは賞与もほぼ全額繰り上げ返済に回しました」
しかし、順調に返済したとしても総額は430万円以上になる計算、とんでもない無駄金だと思う。
「もし、同じ額を貯金していたらなと想像してしまいますね。将来マンションを買うことになったら頭金としては十分な金額だ。資格取得のための学費に充ててもいい。老後に備えて個人年金に加入するのもありだな……。こんな風に考えちゃいますよ」
これまでに返済したのは19回分で228万円。ようやく半分返したところだが、まだ17回、204万円の借金を抱えている。
「競馬は勝っても負けても泥沼に落ちる可能性が高いと思います。勝っているときはもっと勝ちたいとお金を注ぎ込みますし、負けているときは取り返したいとオッズの高い馬券を買うようになるから」
今になって分かったのは、苦しい思いや後悔、不愉快な緊張感をお金で買っていたということ。いかに愚かだったかと反省しても費やしたお金と時間は戻ってこない。
増田 明利
ルポライター