ギャンブルとは無縁で、堅実な性格だった高野さん。しかし、ふとしたきっかけで競馬に手を出し、ビギナーズラックで大儲け。気づいたら、取り返しのつかない借金地獄に陥ってしまいました……。ルポライターである増田明利氏の著書『今日、借金を背負った 借金で人生が狂った11人の物語』(彩図社)より、「借金地獄」に陥った男性の実例をみていきましょう。

アパートから追い出されました…月収32万円“質素で堅実”だった33歳・都内在住の男性が「借金地獄」に陥ったまさかの理由【ルポ】
負け続けても辞められない…競馬にハマる恐ろしい“メカニズム”
翌週、翌々週のレースもやってみたらこれも収支はプラス。これで一気に熱くなってしまった。
「まず、ひとつのレースに注ぎ込むお金が増えました。以前は予想紙に順当とか本線不動と書いてある確率の高そうな馬券を中心に買っていたのですが、中穴、大穴狙いの馬券を買うようになった」
当たったときに配当が高い3連単、3連複にもかなり注ぎ込むようになり、ひとつのレースに1万円、1万5,000円も費やすこともあった。
「たまに当たることもあったけど大半は負けでしたね。1開催で収支がプラスになることは5回に1回ぐらいだった」
一時は「こりゃ駄目だ」と馬券買いを控えていたが長続きしない。
「馬券は買わなかったけど自分が予想した組み合わせが当たって、それが万馬券だったりしたら大損した気分になってしまうんです」
我慢できたのは2ヵ月間だけ。あとは破綻へ一直線だった。
「ひとつのレースで買う点数や賭ける金額がどんどん大きくなってしまった」
全部外れれば目が覚めるのだが、何回かのうちには当たることもある。これがあるから止められない。
「それまで10万円以上も負けていたのに最終レースで買った1点が15万円になったということもあって。これでまた風が吹いてきたなんて思っちゃうんです」
こうなると、今日は負けたけど明日は取り戻そうということになり、土日は競馬三昧という生活に陥ってしまった。地方競馬は荒れるという話を信じて大井、浦和まで遠征して万馬券狙いをしてみたこともあるが、大儲けしたことは皆無。お金をばら撒いているだけだった。
「手取りの給料の半分が2週間で消えちゃったこともあった。コツコツ貯めた預貯金も8ヵ月間ぐらいでほとんど無くなっていました。それでも止められなかった」
次の給料が振り込まれるのは10日も先なのに財布の中には1万円もない。朝食は100円ローソンで売っている5個100円のミニあんパン。昼は給料から天引きされる社食を食べられるが、夜はインスタントラーメンやご飯にマーガリンとお醤油を垂らしたものですませる。体重は減るし、周囲が黄色っぽく見えることもあった。こうなるともう借金するしかない。
「家賃の引き落としが危なくなって消費者金融で用立てたのが借金地獄の入口でした」