医療や福祉の現場は、「いじめが一番多いのに、もっとも対策が行われていない」業界だといいます。9年連続で職場いじめ相談がもっとも多く、2番目に多い業界との差は約2倍。さらに7割以上の職場がパワハラ対策に講じていないなど、その問題は根深いようです。ハラスメント対策専門家である坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より、実例とともに紹介します。
園長の「言い返さなきゃよかったね」に絶句…園児100人超の〈大規模保育園〉で起きた惨劇。正義を貫こうとした非正規職員の末路【専門家が解説】
「言い返さなきゃよかったね」…Aさんに訪れた“胸くそ”な結末
同僚からのいじめに疲弊していたAさんにとどめを刺したのが、この年の秋に行われた園長との面談だった。園長から、来年度のAさんの雇用契約について、「更新はしません。半年前に言ったから、あとは他を探してね」と雇い止めを通告されたのだ。
他の非正規職員は契約更新されており、園の経営が悪化した様子も見当たらない。理由を尋ねると、「みんながAさんの苦情を言っているから」だという。そして、面談の終盤、園長はこう口走った。「言い返さなきゃよかったね」。Bさんのからかいのことなのか、園児への虐待のことなのか。いずれにしても、波風を立てるような保育士はいらないと言われたも同然だった。
園長は、Aさんを追い出して、園に「平穏」を取り戻したいだけだった。過去にも園長は、自分が「気に入らない」保育士を突然辞めさせたことがあった。
Aさんは園長に対して、「改めるべきことは、改めます」と不本意ながら頭を下げた。
改めるべきはAさんではなく、非正規職員や園児を軽視し、保育園を「無事に」運営することしか考えていない園長の方なのだが、Aさんは従順に振る舞うことを選ぶしかなかった。
坂倉昇平
ハラスメント対策専門家