ハラスメント対策専門家の坂倉昇平氏は、職場いじめが起きる要因として「労働環境の悪化」をあげます。そして、上司や同僚の丁寧なフォローを期待できない、余裕がない職場では“少しのズレ”が目立ちやすく、いじめのターゲットにされやすいという問題があるのです。坂倉氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より、ADHDの会社員が受けた「職場いじめ」の実例とその背景を紹介します。

過労で仕事を休んだ翌日→同僚「迷惑かけられたから1万円ちょうだい」…思わず言葉を失う「職場いじめ」の数々【専門家が解説】
ADHDに関する職場いじめ
ミスのたび同僚から「罰ゲーム」
正社員のEさんは、10年以上、同じサービス業の会社に勤務していた。もともと多かったミスが、職場が人手不足になるなかで、増加していった。その様子を見ていた上司から、ADHDの可能性があると指摘され、病院に行くよう指示された。心療内科を受診すると、実際にADHDと診断された。
その後、Eさんに狙いを定めた会社と同僚からのハラスメントが深刻化した。Eさんが仕事でミスするごとに、会社や職場の同僚たちが金をせびるのだ。
ある日、過労のために仕事を休み、1日中寝てしまって病院にも行けないことがあった。同僚たちは迷惑をかけられたとして、「お詫び」という名目で1万円を要求し、実際にEさんは同僚たちに払わされた。同僚たちは「罰ゲーム」的な感覚だったようだが、Eさんからすると「恐喝」だった。仕事を期限までにできなかったことで、給与から手当分を戻すよう求められ、10万円を会社に支払ったこともある。
社内の備品がなくなったときに、その責任を押し付けられ、弁償させられたこともあった。それ以外にも、Eさんに対して自腹購入が頻繁に要求された。
Eさんには、一連の「罰ゲーム」は、自分を辞めさせるためのものとしか思えなかった。ついには、日付が空欄の退職届を上司に無理やり書かされてしまった。これは上司が保管しており、いつでもEさんを辞めさせる準備が整ったといえる。この宙吊り状態のなか、不安を抱えながら、Eさんはいまも働いている。
殴られ、蹴られ、「私は噓をつきません」と白板に書かされる
Fさんは、清掃・建物管理の中小企業で、正社員として長年働いてきた。あるとき配置転換で職種が変わり、応用の必要な業務が増え、以前から多かったミスがさらに増加した。それと同時に、同僚や上長からいじめを受けるようになった。叩かれたり、蹴られたり、「馬鹿」と呼ばれたり、大声で人格を否定されたりすることも日常茶飯事だった。
挙げ句には、ミスの多さを問い詰められ、「私は噓をつきません」という内容の「誓約文」を、職場のみんなが見るホワイトボードに無理やり書かされた。
Fさんは、自分に原因があるのではないかと思い悩み、心療内科を受診した。すると、医師からADHDであることを告げられた。診断書を会社に提出し、これで配慮してもらえると思い安堵した。
ところが、いじめは収まるどころか、悪化した。Fさんが苦手とする深夜のシフトが指示され、しまいには上長と同僚から「お前はもう会社に来るな、帰れ」と告げられた。解雇なのかどうかもわからないまま、Fさんはそのまま出社できなくなり、休職状態になってしまった。Fさんはそのまま退職した。