職場いじめにおいてもっとも相談件数の多い「医療・福祉」業界。ハラスメント対策が十分に行き届いておらず、その数は年々増加傾向にあります。いじめが起きる現場の共通点をみていきましょう。ハラスメント対策専門家である坂倉昇平氏の著書『大人のいじめ』(講談社)より、実例とともに紹介します。
〈保育業界の闇〉東京23区・7年目の保育士なら「年収560万円」のはずだが…実際には「フルタイムでも年収200万円台」が珍しくない“残酷な理由”【専門家が解説】
定時退社を理由に「雑用係」に
20代のDさんは、社会福祉法人が経営し、数十人の子どもを預かる認定こども園に、正社員の保育士として就職した。採用面接では「残業はない」と聞かされており、働きやすい保育園だと思っていた。
ところが入社して、実際に定時で帰宅すると、翌日に先輩保育士たちから「いいご身分ね」と嫌味を言われ、いじめが始まった。「新人の役割だから」という理由で、毎日、休憩時間になると職員全員に緑茶や紅茶、コーヒーなど希望の飲み物を聞いてまわり、コップや湯吞みについで運ぶという「雑用係」をさせられるようになった。当然、Dさんの休憩時間は削られる。
しかも、残業なしと言われたのは真っ赤な噓で、正社員の保育士たちは書類を書くために毎日3〜4時間の残業をするのが普通で、Dさんも先輩の「指導」を受けて、それに従わざるを得なかった。
約束と違う長時間残業と、それを発端とする先輩からのいじめ。納得できなかったが、自分で声を上げるのは怖かったため、夫に相談した。夫が園に何回か電話をかけてくれたが、そこにいるはずの園長も主任も「不在」を続けて逃げ回り、いじめを放置した。3ヵ月ほど働いたが、Dさんは退職を決意した。
「可愛いからって許されると思うなよ」
社会福祉法人が経営する園児100人ほどの大規模な認可保育園に、新卒未経験で就職した20代のFさん。採用面接のとき、入社1年目は、先輩の保育士について勉強すると言われて安心していた。
ところが、園内には、配置基準ギリギリの人数の職員しかおらず、そんな余裕はなかった。前の年の離職者も多かったようで、Fさんは4月から、いきなり幼児十数人の主担任を任されることになった。園長に相談して、新人で経験もなく無理だから辞めたいと相談したところ、「もう少し頑張ろう」と励まされるだけだった。
一方で、先輩や同僚からは「可愛いからって許されると思うなよ」と、担任を拒否しようとしたことでいじめの対象となった。指導でも他の人より厳しくあたられ、無視されるなどのいじめが始まった。
過大な業務といじめに耐えかね、Fさんは精神疾患を発症して約3ヵ月で退職。もう保育園では働きたくないと考えている。