近年、抑うつの症状がみられる子どもが増加傾向にあります。これは、さまざまな社会的変化などの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。子どもの抑うつは、本人の心身だけでなく、社会全体にも大きな影響を与えます。学業成績の低下や不登校といった教育問題だけでなく、将来的な労働生産性の低下や、医療費の増大といった経済的な負担も生み出す可能性があります。また、抑うつは、自殺リスクを高めることにもつながり、社会全体にとって大きな損失となるでしょう。本記事では、子どもこころ専門医・指導医である舩渡川智之氏監修の書籍『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)から、子どもの抑うつについて解説します。
生きていることは楽しいと思わない…小学生の12%、日本で子どもの「抑うつ」が増えているワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

10代の問題の根底にうつ病未満の抑うつがある

お子さんにつき添い児童精神科を訪れた多くの親御さんは、戸惑った様子を見せることがあります。思春期は誰もが経験するものですが、時代の変化とともに子どもの心の問題も変化しているからでしょう。

 

持続的な抑うつが増えている

思春期は精神的に不安定になりやすく、昔から子どもに抑うつが見られることはありました。けれども10代の抑うつは、一過性の症状とされてきました。ところが最近のデータは、10代の子にも成人と同じような持続的な抑うつも増えていることを示しています。

 

「世界子供白書2021」によると、10代の若者の13%以上が心の病気と診断されており、その4割が不安や抑うつです。また、日本では小学生の約12%、中学生の約15%が抑うつを示しているという報告があります。その多くは持続的に抑うつ状態にあり、「生きていることは楽しいと思わない」という答えが多く見られたといいます。

 

令和5年版(2023年版)の自殺対策白書(厚生労働省)によれば、日本は先進7ヵ国のなかで10~19歳の死因の1位が自殺だという報告もあります(他国は事故が1位)。

 

小中高生の自殺者数の年次推移
[図表1]小中高生の自殺者数の年次推移 出所:『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)より抜粋

成長を急かされる社会では抑うつを感じやすい

思春期のうつ病増加の背景には、国際的な精神医学の判断基準DSM(アメリカ精神医学会)で、うつ病に該当する範囲が広がっているという要因もありますが、現代の社会的変化も見逃すことはできません。成人のうつ病では「自分の帰属する社会で責任をまっとうしなくてはいけない」という精神的負担が要因として挙げられます。かつては子どもがこうした負担を感じることはあまりありませんでした。

 

ところが現代では、少子化や情報化といった社会変化により、子どもたちは早い段階から競争にさらされ、成功や成長を求められるようになりました。子どもの発達スピードは、個々に異なります。本来なら周囲の大人が、1人ひとりの成長を見守り、社会に送り出してあげなければなりません。

 

しかし現代社会は、集団生活のなかで横並びであることを求め、本人のスピードを無視して成長を急かします。子どもが混乱や葛藤を抱え、精神的負担を感じやすくなるのも無理はありません。さらに、いじめや虐待(肉体的な暴力だけでなくネグレクトや両親の不和、過剰な教育の要求なども含む)などが加われば、状況は悪化します。発達途上の脳に長期的にダメージが加わり、ストレス反応を起こし、感情コントロールや記憶、学習が困難な状態になることもあります。

 

自殺者数の前年差
[図表2]自殺者数の前年差 出所:『思春期の子の「うつ」がよくわかる本』(大和出版)より抜粋