社会のしくみから外れた子
外来では「子どもが理解できない」と言う親御さんの声をよく聞きます。けれども、昔といまの子どもにはそれほど大きな違いはありません。
いまも昔も思春期の本質は変わらない
昔の10代は、親に反抗して家出したり、シンナーや違法薬物の使用、窃盗などの犯罪に手を染めたりするケースがよくありました。たしかにいま日本では、こうした非行問題は減少しています。一方、ゲーム依存やひきこもり、不登校などが増えています。SNSを使って、いわゆる「パパ活」をする女の子もいます。
子どもがエネルギーを外に発散させることが減ったように見えるのでしょう。親御さんは「おとなしすぎる」と思うかもしれませんが、いまの子はネットやSNSを利用し、自分の世界の内側でエネルギーを発散させています。たとえば、部屋にひきこもりながらネットゲームに没入し、雄叫びを上げて闘志をむき出しにして、殺戮ゲームにいそしむ子どももたくさんいます。インターネットという新たな世界が生まれただけで、思春期の本質はなにも変わっていないのです。
いったん外れると戻りづらい「横並びシステム」
思春期が複雑で難しいのは日本に限ったことではありません。ただ、患者さんをみていると、日本社会特有の問題があると感じます。たとえば、横並びの学校制度です。
欧米などでは、出席日数にかかわらず習熟度が不十分なら留年します。小さいころは月齢差が大きいので、留年しても習熟して進級したほうが子どものためなのです、留年した子どもに大きな不利益はありません。一方日本に義務教育では原則として留年はなく。小1から中3まで一律に進級します。高校では出席日数や成績で留年する場合もありますが、それほど多くはありません。
なんらかの事情で留年してしまうと、元の学年の仲間と離れてしまい疎外感を覚えます。その結果、年下の集団のなかで孤立し、退学や転校を余儀なくされることもあります。仲間意識の強い思春期にこのような状況におちいるのは、大人が想像する以上に酷なことだと思います。
病気や怪我で数ヵ月間学校を休んだ子はどうなるでしょうか。同じ学年に戻ってもなかなか勉強に追いつけません。遅れていたぶんをとり戻そうと頑張りすぎれば、ストレスを感じます。下の学年に入ったとしても、余計に孤立感を感じてしまうでしょう。もともと精神の病気で休んでいたとしたら、再発することもあります。日本の横並びシステムでは、いったんレールから外れると10代で「脱落」の烙印を押されてしまうのです。
横並びだからこそ、同性仲間の承認が重要になる
自己形成期にある思春期の子には強い承認欲求があります。もっとも大事なのは親や身内の承認ですが、学校という「横並び社会」では、それと同じぐらい同性・同年代からの承認が重要になります。このため、10代の子は友だち関係が鯨飲で抑うつや不安になることも少なくありません。10代の自殺の理由を見ると、病気や進路・進学の悩みとともに「(いじめではない)学友関係」も多いことがわかっています。
また最近では、SNSなどインターネットの影響も指摘されています。いま思春期の子どもたちの承認欲求は、学校というリアルな場にとどまらずバーチャル空間に及んでいます。SNSでは実際の友だちの投稿に加えて有名人や匿名ユーザーの投稿にも心が揺れ動きます。子どもの脆弱な心はつねに承認欲求にさらされ、自己形成のための価値観が「承認されるか否か」という外部評価に委ねられているのです。