詐欺の被害で大金を奪われたといったニュースを見て「なんで騙されるの?」と疑問に思ったことがある人は多いでしょう。ですが、「自分は大丈夫」と自信がある人ほど注意しなくてはなりません。なぜなら、「簡単に稼げる」という誘惑に人は驚くほど弱くなるからです。行動経済学を知り尽くした詐欺師たちは、私たちの心の隙間を狙い撃ちにするよう緻密に設計された手口で、最後には全財産を奪い去ります。今回は59歳、業界歴30年のベテラン営業マンが、若手上司への憤りと早期退職への渇望から6,000万円を失った事例を、ファイナンシャル・プランナーの青山創星氏が詳しく解説します。
(※写真はイメージです/PIXTA)
お願いですから戻らせてください…資産1億2,000万円で歓喜の早期退職を実現した59歳会社員、わずか3ヵ月後に元職場へ復職の直談判。発端はある日届いた「LINEの通知」【FPの助言】
年下上司に追いつめられる日々に憔悴する中、見覚えのないLINE通知
瀬戸島直正(仮名、59歳)さんは、大手電機メーカーの営業部で30年以上のキャリアを積んできたベテラン社員でした。かつては部下を持つ中間管理職として活躍していましたが、会社の組織改編で若手が登用され、平社員として営業ノルマに追われる日々。
新任の上司、佐藤課長(仮名、38歳)からの容赦ないノルマ要求に、瀬戸島さんの心は折れそうになっていました。もうすぐ60歳で定年になりますが、その後も継続雇用で給料がガクンと下がるなか、この上司の下で働かなくてはならないのです。
そんなある日、瀬戸島さんのスマートフォンに見覚えのない通知が届きました。LINEのグループに勝手に追加されていたのです。
グループ名は「投資学習会」。最初は無視しようと思いましたが、グループ内でのやりとりが気になり、瀬戸島さんは少しずつ覗き見るようになりました。そこでは、投資の先生と呼ばれる人物が、生徒たちの質問に的確に答えていました。
「先生、指示通り売買したら今日の取引で10万円儲かりました!ありがとうございます!」
「素晴らしい成果ですね。これからも頑張りましょう」
生徒たちは先生に尊敬の念を示し、感謝の言葉を返していました。さらに、グループには、稼いだ資金で海外旅行に行ったり高級リゾートで過ごしたりする写真が頻繁にアップされていました。
「投資学習会」での華やかな世界を見るにつれて、瀬戸島さんの心は少しずつ揺れ始めていました。