税務署が「110万円以内の生前贈与」を否認する理由
さらに気を付けたいのが、生前贈与加算。もともと、生前贈与の3年内加算」という規定があり、贈与から3年以内に亡くなった場合は、相続財産に含まれるとされていました。それが2024年1月1日からの贈与では、対象期間が3年から7年に延長となりました。
令和5年度税制改正により変更になったこのルール。1年前にベンチャーサポートグループ株式会社が全国の60代以上の親を持つ男女を対象に実施した調査では、認知度20.3%。5人に1人しか知られていませんでした。
子どもや孫への贈与をコツコツしている……そんな年金世代も多いでしょう。しかし、自身に突然の不幸が生じることも考えられます。そうなった場合、それまでは「直近3年分の贈与は認められません」だったのが、「直近7年分の贈与は認められません」となるのですから、大きな変更ポイントです。
さらに気を付けたいのが「名義預金」です。これは口座の名義人と実際にお金を出した人が違う預金のこと。佐藤さん夫婦の場合も、大翔くん名義の口座にコツコツとお金を振り込んでいたら、「これは実質、佐藤さん夫婦の預金ですよね」と見なされ、仮に相続が発生した場合、相続財産とみなされます。また名義預金という意識がない場合は、相続財産であるという申告もしていないでしょう。最悪、あとから税務署から指摘され、「これは贈与になりません。相続の申告漏れです」と、ペナルティが科されるケースも考えられます。
ちなみに国税庁『令和4事務年度における相続税の調査等の状況』によると、相続税の税務調査は年間8,196件、そのうち申告漏れ等の指摘を受けたのは7,086件。税務調査が入ったら追徴課税となる可能性は実に8割以上と高確率。1件あたり816万円の追徴額となっています。また無申告と指摘され税務調査に至ったのは705件で、実際に申告漏れが指摘されたのは607件。1件あたり1,570万円の追徴額でした。
さらに贈与税に関する税務調査は2,907件で、申告漏れは2,732件。1件当たり270万円の追徴額となっています。
――これ、お孫さんのお金じゃないですよね
――えっ、これはおじいちゃん・おばあちゃんからの贈与で……
――いえ、贈与とは認められません
――は、何かの間違いでは?
孫のためにという優しさが、きちんと報われるよう、事前に対策をしておく必要があります。
相続税に関する預貯金等の帰属の裁決事例では、「その資金源、預入れの経緯、印章の使用状況、入出金の管理状況及び名義変更等に伴う贈与税の申告状況等を総合勘案して判断するのが相当である(国税不服審判所平成19年3月5日裁決・TAINS F0-3-309)」としています。
確実に年間110万円以内の贈与を名義預金とみなされないためには、「贈与契約書を作成」「贈与に伴う資金の移動は預金口座間で実施」「預金通帳、銀行印の管理は受贈者自身が行う」の3点がポイント。
さらに受贈者が未成年者の場合には、民法824条で親権者がその子の財産を管理することになっているため、両親などの親権者が法定代理人として、通帳と銀行印を管理し、贈与契約書には受贈者と親権者が署名押印することが重要です。
[参考資料]