業務内容や人間関係で苦しいことがあっても、「もうすぐ定年だから」と踏ん張っているビジネスマンも少なくないのではないでしょうか。定年をあと目前に控えた原田武司さん(仮名)もその1人です。しかし、同じ誕生月の同期が64歳11ヵ月で退職。理由を聞いてみると「こっちのほうが得」と言います。これは一体どういうことなのか? ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、「失業保険」と「高年齢求職者給付金」の仕組みと注意点について解説します。
「定年まで働いたぞ!」万感の思いに浸る年収450万円・65歳“窓際サラリーマン”撃沈…〈64歳11ヵ月〉で退職した年収380万円の同期が「羨ましくて仕方がない」ワケ【CFPの助言】
武司さんが受け取る「高年齢求職者給付金」の額は…
続いては、武司さんが受け取る高年齢求職者給付金についてみていきましょう。
「高年齢求職者給付金」は、65歳以上の方が失業した際に支給される手当のことです。こちらも65歳以降に受給が開始される老齢基礎年金や老齢厚生年金と同時に受けられます。
支給要件は以下のとおりです※4。
・離職日以前の1年間に6ヵ月以上雇用保険に加入していた
・ハローワークで求職の申し込みを行い、働く意思と能力はあるが就職できない「失業している状態」にあること
基本手当日額は、前述の失業保険と同じ計算式で求められます。支給日数については[図表3]のとおり、30日または50日のいずれかに分かれます。
上記を参考に、武司さんの高年齢求職者給付金額を計算してみましょう。
基本手当日額については、年収が450万円となるため、賃金日額は225万円÷180=1万2,500円です。前述の計算方法を参考にすると、基本手当日額の以下の式で求められます。
ここに武司さんの金額を入れると、下記のようになります。
原田さんの基本手当日額は、6,393円です。次に支給日数は、雇用保険に1年以上加入しているため50日となります。
・支給日数:50日
・基本手当日額:6,393円
よって、原田さんの高年齢求職者給付金額は6,393円×50日=31万9,650円です。同期Bさんの支給額が76万8,450円となるため、支給額に46万円程度の差が生じていることがわかりました。
「退職を1ヵ月早めるだけでこんなにも差が出るんですね。住宅ローン返済のために苦しくてもなんとかここまで働いてきたのに、早めに退職したほうがよかったのかも……」武司さんは、自分の選択を悔やんでいる様子です。
落胆する武司さんに、FPがかけた「意外なひと言」
しかし、FPは意外にも前向きです。「たしかに支給額の違いは大きいですが、蓋を開けてみればそこまで大きな違いはないかもしれませんよ」。
武司さんが「それは本当ですか?……どうして?」と聞き返すと、FPは次のように言いました。
「たとえば、給与でいえば同期のBさんは1ヵ月分が支給されていませんよね。それに、1ヵ月分の社会保険料も全額自己負担になります。その他にも、厚生年金の加入期間が1ヵ月少なくなるわけですから、年金受給額にも違いが生じてきます」。
武司さんはFPの言葉を聞いて、ようやく顔を上げました。「そうなんですか……それなら、少し心が軽くなりました。あまり損したと思わずに、これからの生活を前向きに考えることにします」。
65歳の元・窓際サラリーマンは、希望を抱き、新たな生活を歩み始めました。
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー