(※写真はイメージです/PIXTA)

筆界と実際の所有権の範囲が一致しないことは珍しいことではなく、突然、隣地から「境界線を越えている!」とトラブルになることもあります。どうしたらそのようなトラブルを防止することができるのでしょうか。弁護士が解説します。

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境界線にまつわるトラブル事例

境界トラブルが生じるのは、土地を売買しようとするとき、アパート・居宅等建物を建て替えようとするとき、大きくわけて、この2つのきっかけがほとんどだと思います。普通に住んでいる状態ですと、せいぜい、隣の木が塀を越えてきたとか、その植栽から虫が入ってくるなどのちょっとしたご近所トラブルに留まります。しかし売買・建て替え時に境界トラブルが生じると、最悪、その動きが止まってしまうので大きなトラブルに発展しがちです。

 

まず、近年土地を売却するためには、隣地所有者の立会確認をとって土地の面積を測量する「確定測量」という手続きが基本的に必要になっています。そもそも日本には、数十年前から測量がなされておらず、法務局に登録されている地積と現状の地積がずれている、という例がたくさんあります。

 

法務局に登録されている面積を「公簿面積」、実際に測量によって確定した面積を「実測面積」といって区別します。このずれが多少のずれであればよいのですが、地震等による境界杭のずれや、そもそも数十年前の測量技術の拙さにより、大きなずれになっているケースもあり、トラブルがたびたび発生しました。そのため、一般的な宅地であれば、「確定測量」による「実測面積」をもとにした売買取引が行われることが多い、というのが現在の不動産取引の状況です。

 

隣地所有者の立ち会いのもと行われる「確定測量」が行われたということは、隣地の人も認める境界線が引けているということで、トラブルがない境界だということになります。この「確定測量」を行う過程で隣地トラブルが発生するのが、現在の不動産流通を阻害する頭の痛い問題です。

 

単純に、お隣が境界に納得いかないという境界線自体が争いになるケースもあれば、隣地所有者が見つからない、という所有者不明で困ってしまうケースもありえますし、隣地所有者が不明の事案は難しそうに見えます。

 

しかし、令和5年の所有者不明土地管理制度の制定なども相まって、所有者不明土地の対応方法が多様化しており、ある程度時間とお金をかけて弁護士に依頼して裁判所を利用すれば解決可能なので、まだ解決しやすいトラブルだと思います。他方、「単純に、お隣が境界に納得いかないという境界線自体が争いになるケース」は、解決方法は後述するようにあるにはあります。しかし、タフな争いに発展しがちなので、なかなか頭の痛い問題です。

 

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筆界と所有権界

具体的に隣地とトラブルになる際の境界線トラブルの解決方法をご紹介する前に、「筆界」と「所有権界」という言葉をご紹介させていただきます。聞きなれない言葉だと思いますが、境界には「筆界」と「所有権界」の2つの側面があります。

 

「筆界」とは、公法上の境界です。行政の機関である法務局が管理している土地の境界という意味合いでよいです。行政上の土地の境界である「筆界」を変更するためには、「分筆」という土地を分ける手続きをとるか、「合筆」という土地を一体のものにする手続きをとるか、いずれも法務局での手続きが必要になります。なお、土地は、この筆界に応じて、「一筆の土地」などと呼ばれます。「一筆の土地」を「分筆」して二筆に分けたとか、二筆の土地を「合筆」して一筆の土地にしたといった次第です。

 

他方、境界には「所有権界」という概念もあり、これは、所有者の所有権の範囲を示す境界線のことで、理論上は、民法上の個人間の合意で変更できるものです。

 

理論上はと加えたのは、このように区別されているものの、特殊な事情がなければ基本的には「筆界」≒「所有権界」であり、ずれているケースのほうが少ないので、実務的にはほぼほぼ同じものと考えていて差し支えないかと思います。

 

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境界線の確定方法

さて、前置きが長くなりましたが、隣人間で境界に争いが生じた場合、基本的には、「境界確定訴訟」という手続きにて、境界を確定する手続きが予定されております。ただ、この手続きは「訴訟」というだけあって数年にわたり審理され、かなり負担の重たい手続きとなります。

 

そのため、実務的には、「筆界特定手続き」という行政上の筆界を特定する手続きを利用することが多く、法務局にて行う手続きで、土地家屋調査士に依頼して行うのが一般的です。比較すると、解決までの時間やコストが境界確定訴訟に比べて負担が少なく、実務的にはこちらの手続きが多いと思います。

 

ただ、弱点があり、「筆界特定手続き」のなかで、双方が納得できる境界が定まればよいのですが、「筆界特定手続き」の結果に納得できないとなれば、筆界特定手続きのあとに、別途境界確定訴訟を提起することができてしまうのです。

 

国民間のトラブルは裁判所で終局的に解決しなさいという制度設計であり、「筆界特定手続き」では完全解決しない可能性がある、というのが弱点です。

 

さて、最後に、基本的に土地は、確定測量を経て、境界を確定してから売却することが近年多くなっていますが、そもそも「境界確定未了」の状態でも土地の売買は可能であり、買主が合意していれば境界が不明確でもよいという条件で行う売買です。

 

もちろん、土地の境界が未了な分、きっちりと測量できている土地に比べて割安な金額になることも多く、そもそも測量費用が多額になってしまうようなケースや、境界を確定しておかなくてもそれほど問題にならないようなケースでは比較的よく見られる取引形態です。たとえば、家の裏手が丘のような斜面になっており、そもそも境界が引きづらいような形状の際などに見かけます。

 

今回ご紹介したように、土地の境界が紛争に発展した場合、その測量費用や解決費用には多額の支出と解決期間が必要になるケースも多いです。そのため、「確定測量」したよりも売値が低くなると悲観的にとらえずに、境界測量したほうがよいのか、むしろ境界未了条件で売却したほうがよいのか、このあたりの見極めが巧い不動産会社に相談し、売却条件についても考えていかなければならないのが、不動産取引の奥深いところだと思います。

 

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