日本では65歳以上の約18%が要支援・要介護状態となっています。年金生活が始まれば、自分の老後のことだけを考えたいと思うかもしれませんが、現実はそう簡単ではなく、時に過酷な状況に直面することもあります。本コラムでは、早田慎介さん(仮名・65歳)の事例を通じて、老後生活に突入した後、親の介護を担うことになった場合の対処法や、事前に講じておくべき対策について、ファイナンシャルプランナーの小川洋平氏が解説します。
こんな生活、一体いつまで続くのか…悠々自適の老後を夢見た資産4,000万円・年金月25万円の65歳元会社員、予期せぬ“老親2人のダブル介護”に悲鳴【CFPの助言】
元気だった母までも骨折が原因で「ダブル介護」に突入
そんなある日、さらなる事件が起きました。母がデイサービスに行く父の見送りをしようとした際に、玄関で転倒してしまったのです。年をとって脆くなった骨は、少しのダメージでも大怪我に繋がります。母の足も複雑骨折していて、1ヵ月以上の入院が必要という状態になったのでした。
「なんてことだ、これではどうにもならないぞ……」
色々と考えた結果、早田さんは父を有料老人ホームに預けることにしました。一方で、母はもはや一人で歩くことは難しく車いすが必要な状態に。そのまま要介護認定を受けることになったのです。
こうして、両親が二人とも同時期に要介護認定を受けることになってしまい、早田さんは「ダブル介護」という想定外の現実に直面することになりました。
父が有料老人ホームに入居したことで、毎月の介護費用はすでに20万円近くになっていました。ここで母までも老人ホームに入居し、父と同額程度の費用が必要になった場合には合計40万円もの負担になります。父母の年金を合計しても月15万円程度にしかならないため、自分達の預金を毎月25万円程度のペースで取り崩すことになりますが、それは現実的に不可能です。
そのため、早田さんは実家で暮らして母の面倒をみることに決めました。月に1~2回は妻の昭代さんに交代してもらうため、自宅と実家を往復する通費もジワジワと家計を圧迫します。その結果、自分達の生活費と合計して毎月30万円ほど資産を取り崩さなければならない状況が5年も続いてしまいました。また、早田さん自身もすでにシニア世代。若い時ほどの体力はありません。
「この生活、いったいいつまで続くのか。これ以上続いたら親も我が家も共倒れになるぞ」
こう思っていた矢先、幸いにも父の特養入居が決まりました。そして、母も施設に入れることができるようになり、早田さんの厳しいダブル介護生活もようやく終わりを迎えることになったのでした。
やっと介護から解放された早田さんでしたが、この5年で4,000万円もあった資産は半分ほどに減少。以前より金額は減るものの、これからも両親の介護費用はかかり続けるため、楽しみにしていた旅行に行くほどのお金の余裕はもうありません。早田さん夫婦の悠々自適な老後の生活は、忍耐のダブル介護生活へと変わってしまったのでした。