AIによって人間の仕事は奪われるのか
こうした状況を鑑み、かつて「AIが人間の仕事を奪う」というAI脅威論が一部で深刻に受け止められていました。しかし、現実で起きている現象はそう単純に言いきれるものではないでしょう。上記の事例から見えてくるのは、単純にAIが「人間の仕事を奪う」のではなく、「人間が行っていた作業を代わる」ことであって、その結果、人間はより本質的な仕事に集中できるようになるのだと理解できます。
もちろん、AIによって「なくなる職業がない」というわけではありません。たとえば、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコでは、自動運転自動車による完全無人タクシーがすでに営業を開始しています。人間の運転手が乗っておらず、利用者はタクシーの予約から行き先の登録、支払処理までをすべてアプリで行うため、タクシーの利用に際して人間とは一切、接点が生じません。
実際に自動運転タクシーを利用した人に話を聞くと、どのようなドライバーが乗っているのかわからない通常のタクシーよりも安心して利用できる、見知らぬ第三者と同じ空間を共有しないため非常に快適、といった感想を話してくれました。
もちろん、現状の自動運転自動車は、人間ほどの柔軟性がないため、大きな事故とはならないまでも、小さなトラブルは起きているそうです。ただ、それを差し引いたとしても、「人間が運転するタクシーよりも、自動運転タクシーのほうがいい」と判断する人は少なくないでしょう。
このようにAIの進展は、オフィスワークのようなホワイトカラーの仕事だけでなく、自動車の運転のようなブルーカラーの仕事においても、代替できるほどになってきています。そして、こうした状況が進むことによって、これまで社会において「稼げる仕事」だと思われていた職業が、「それほど稼げない仕事」になったり、場合によってはタクシーの運転手のようにその需要を大きく減らしたりといったケースが出てくることになるでしょう。