AI時代に求められる仕事
では、そうした時代においてこそ、稼ぐことができる仕事とはどのような職業でしょうか。
1.まるで図書館の司書?高まる「データエンジニア」の需要
ひとつは、データエンジニアという職業です。AIが十分な性能を発揮するためには、データを学習する必要があります。一方で、こうしたデータは、過去に収集したデータであったり、または別の目的のために集めたデータであったりと、AIの学習に適さないことはよくあるのです。
というのも、目的に対して精度の高いAIを作り出すためには、その目的にあったデータであり、同時にエラーやノイズが少ないきれいなものを、なおかつ大量に集めなければなりません。そうしたデータを収集するには、該当する分野に関する業界知識や業務知識に加えて、仕事のなかで、どのようなデータを、どうやって収集するのかをあらかじめ定める必要があります。
そうした、AIの学習に必要なデータの取得に関わる職業をデータエンジニアといいます。データエンジニアは、AIを開発するエンジニアから相談を受け、どんなデータが必要か、どうやってデータを取得するのかを考えます。その仕事は、図書館の利用者の相談をもとにどんな本が必要か案内したり、必要に応じて新たに収蔵する本を選定したりする、司書に似ています。
こうしたデータを収集する仕事は、AIの目的によってデータの内容が異なり、また、AIが利用され続け性能を向上していくなかで、データの種類や集め方について改善し続けることが求められます。そのためには、AIそのものを開発するエンジニアだけでなく、それをビジネスとして営む営業職や企画職、そして実際に利用するユーザーと、ユーザーと向き合うカスタマーサポートなど、さまざまなステークホルダーとコミュニケーションしながら仕事をする必要があります。したがって、データエンジニアは、AIの利用が進めば進むほど必要とされ、同時にAIには簡単に置き換えられない仕事というわけです。
令和元年度の厚生労働省「令和元年賃金構造基本統計調査」によると、データエンジニアの全国平均年収は約667万円です。現状、日本における年収1,000万円を超えるデータエンジニアの数はごくわずかですが、海外ではそうした高い年収のデータエンジニアはすでに多く、なかには年収数千万円という人もいるようです。 ニーズが高まると予想できるデータエンジニアの仕事は、今後日本国内でも、さらに平均年収が上がっていく可能性も高いといえるでしょう。
2.AIから優れた答えを引き出すプロ「プロンプトエンジニア」
学習させたAIは、あくまでも特定の機能であったり、特定の作業に特化したりしているものです。そのため、単独のAIだけでは人間のように複雑で複合的な作業を行うことができません。そこで、現実の仕事をAIが処理できるようにするため、複数のAIを組み合わせた、AIシステムが必要になってきます。
すでにこうした複数のAIを組み合わせた、システムが実際の仕事の現場では使われています。たとえば、あるテレビ局では、情報番組の料理コーナーで放映したレシピをウェブサイトに掲載するため、料理コーナーの映像から自動的に材料や調理手順と、映像からキャプチャした調理の様子や料理の画像が含まれた記事を自動作成するAIシステムを利用しています。
このAIシステムには、①音声認識モデル、②テキストデータからレシピとして情報を整形する大規模言語モデル(LLM)、③レシピに基づいて適切な場面から画像を切り出す画像認識AI、という3つのAIが組み合わされています。
このように、AIを高度に使いこなすためには、さまざまなタイプのAIを把握し、それらを組み合わせる必要があります。近年、AI利用が業務に浸透したことで、LLMや画像生成AIに適切な指示を出すため、プロンプトと呼ばれる指示文章を適切にチューニングする、「プロンプトエンジニア」という職業が登場しました。
プロンプトエンジニアの平均年収は、まだまだ新しい職種であるため、明確なデータが定まっていないのが現状ですが、国内の求人サイト「Indeed」では、プロンプトエンジニアの年収は約600万〜700万円程度が相場としてみられます。海外では、アメリカのZipRecruiterによると、プロンプトエンジニアの平均年収は6万2,977ドル(2024/9/26時点の円換算:約911万 円)と非常に高額です。アメリカのようにAI技術の発展が著しい国では、プロンプトエンジニアの需要が高く、データエンジニアと同様に、数千万円を超えるような高年収を得る人も多いようです。
プロンプトエンジニアリングなど、AIをコーディネートできるエンジニアが職業として成立する背景には、AIがまだ人間ほどには適切に人間の指示を把握できないためです。人間は、仕事の業種、作業の内容、目的といった、指示の背景にある文脈を暗黙のうちに読み取って、仕事をしています。現在のAIは、そうした文脈を読み取るまでには至りません。プロンプトエンジニアは、それをユーザー側で上手く補完する技術を提供する仕事です。
今後は、複数のタイプのAIを組み合わせることに加えて、AIシステムが利用される仕事や会社に合わせてチューニングされたAIシステムが、多くの仕事の現場で利用されるようになるでしょう。そうしたシステムは、あらかじめAIが文脈を理解しているため、特別なプロンプトは必要とされず、必要な情報のみをAIにインプットするだけでよくなります。仮に背景情報が不足しているならば、それをAIが判定して、利用者に対して追加のインプットを求める「対話」が行われるようになるでしょう。
つまり、今後のAIシステムは、人間がAIに対して指示を工夫するのではなく、AIのほうが人間に歩み寄ってくるわけです。そして、こうしたAIを組み合わせて、適切に目的を遂行するため機能を取りそろえ、利用者が必要以上に手間を掛けることなく利用できるようなAIシステムを構築できるエンジニアが求められるようになると予想します。いわばAIコーディネーターのようなスキルが、今後求められるようになるでしょう。
-----------------------------------------------------
<著者>
青山 祐輔
ITジャーナリスト。
IT系出版社でテクノロジー系Web媒体の記者、ネットワーク関連の月刊誌編集者、シンクタンク研究員等を経て独立。フリーランスとしてIT、ビジネス分野で取材・執筆を続けるほか、広告・PR等の制作やオウンドメディアのディレクション等を広く手がける。