11月に入り絶好の観光シーズンに突入したタイ(正式名称:タイ王国)に行ってまいりました。もちろん旅の目的は、最新のフードテック事情をリサーチすること。タイは東南アジアの中部に位置する常夏の国であり、エリアによって異なる多様な食文化が特徴です。そして今注目されているのが、プラントベースフード。実は世界の中でプラントベースフード市場を牽引するほどの実力を持つ国として、注目されているのです。
国家戦略として取り組む!?国民からも愛されるおいしいタイのプラントベースフード最新事情

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

プラントベースフード市場に注力するタイ

タイ・バンコクにある仏教寺院「ワット・プラシーラッタナサーサダーラーム」。タイ国民の95%は仏教徒。(著者撮影、以下同)
タイ・バンコクにある仏教寺院「ワット・プラシーラッタナサーサダーラーム」。タイ国民の95%は仏教徒。(著者撮影、以下同)

 

具体的な数値を見ていくと、2022年の全世界における代替肉の市場規模は150億USドル程度。と推計され、そのうちタイは8%(8.5億USドル)程度と大きな市場を形成しています。そして2024年予測値としてはタイのみで15億USドルと2022年から12%拡大する見込みと予測されています

 

このような状況において、タイ商務省の貿易政策戦略室(TPSO)は2024年9月、国際競争力や持続可能性を高めるために、財政政策研究所と共同でプラントベースフード産業の将来性を研究するプロジェクトを開始。生産、マーケティング、研究開発、投資、データ管理、規制改善の促進に関する具体的なガイドラインを提示しています。

 

なぜタイがここまでプラントベースフード市場に注力をしているのでしょうか? 今回はその理由を探りながら、2024年11月にバンコクで発見したハイレベルなプラントベースフードの事例をレポートしていきたいと思います。それらを支えるテクノロジーの可能性とは?

タイがプラントベースフードを牽引する理由とは?

タイには野菜や果物に彫刻を施す「カービング」という伝統工芸がある。
タイには野菜や果物に彫刻を施す「カービング」という伝統工芸がある。

 

はじめに、タイにおけるプラントベースフード市場が急成長している理由について考えていくと、次の3つの理由が浮かび上がってきます。一つ目の理由は、宗教的な側面によるもの。タイでは中国系タイ人を中心に約4割のタイ人が参加するギンジェーという宗教行事があります。

 

これは毎年旧暦の9月1日から9日間行われる菜食週間(2024年は10月3日から11日まで)のことで、肉類や卵、乳製品などの動物性食品、ネギやパクチーなどの香りの強い野菜、味付けの濃い料理、酒類の摂取を控えることで身を清めて、健康や運気の向上を願うというもの。このような食習慣が受け継がれていることが、プラントベースフードの確固たる存在感に大きな影響を与えていると考えられます。

 

二つ目は、国際的に見てもベジタリアンやヴィーガンの割合が多いこと。

 

ある調査によれば、ベジタリアンが31.3%、ヴィーガンが21.5%という高い数値となっており、日本の食事情とは大きくかけ離れていることがわかります。

 

そして三つ目は、タイには野菜や果物に彫刻を施す「カービング」という伝統工芸があり、古来から植物性食品に対する特別な付き合い方が継承されていること。このような食文化はプラントベースフードに対する肯定的理解につながっていると考察できます。

 

それでは実際にどのようなプラントベースフードが登場しているのでしょうか? ここからは2024年の11月上旬にバンコクで出会った、おいしいプラントベースフードの事例をご紹介していきたいと思います。