年々過熱する中学受験。少子化傾向にもかかわらず、受験を考える家庭は増加を続けています。しかし、難関校への進学は、子どもにとって必ずしも良いことばかりではないのかもしれません。2児の母でもある石川亜希子AFPが、中学受験の実態について具体的な事例をもとに解説します。
お願い、父さんには言わないで…世帯年収1,100万円の40代公務員夫婦、難関私立に通う14歳“自慢の息子”の「学校辞めたい」に絶句【AFPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

中学受験のあとに必要な“想定外”の費用

文部科学省の「令和3年度子どもの学習費調査」によると、

 

公立中学……学校教育費約132,000円+学校外活動費約369,000円=約 501,000円

私立中学……学校教育費約1,061,000円+学校外活動費約368,000円=約1,429,000円

 

公立中学に進学した場合と私立中学に進学した場合、教育にかかる費用は1年間で90万円以上の差になることがわかります。学校外活動費には、塾代や習い事の月謝も含まれますから、子どもにかかる費用の目安になり、このくらいなら、と中学受験に踏み切る場合もあるでしょう。

 

ただし、これはあくまで平均値、どの家庭にも当てはまるとは限りません。松本家で問題にあがったような交際費は含まれていませんし、ましてや、そのときの子どもがどんな気持ちになるのかなど、子どもの事情も含まれてはいないのです。

 

また、大学までエスカレーター式の大学付属校のほうが、大学付属ではない中高一貫校より学費が高く、その分、裕福な家庭も多い傾向にあります。

 

「私がもっと働く時間を増やして収入を上げたほうがいいかしら?」

 

久美子さんがそう言うと、友人は否定しました。

 

「そういう問題じゃないわ、世帯年収的に問題があるわけじゃないもの。それに、すべてをお金持ちにあわせることなんて不可能よ」

 

「そ、そうよね……」

 

「転校したって、社会に出たって、何かしら差を感じることはある。そのときにどう考えるか、家計とは別の問題よね」

 

「そのとおりだわ……息子ともっとちゃんと話してみよう」

 

「そうよ、子どもが言うみんなって、案外、周りの数人だけだったりするし」

 

その日は、勇輝くんが渋々参加した修学旅行から帰ってくる日です。久美子さんは友人と別れ、家路を急ぎながら、息子になんと伝えたらいいか、いろいろと考えていました。

 

家に着くと、すでに帰宅していた勇輝くん、バッグから荷物を取り出しながら言いました。

 

「ねえ聞いて。お小遣いの額は決められてたのに、キャッシュレスで勝手に高額なものを買った友だちがいてさ、先生にバレてめっちゃ怒られてた。ルールも守れないのか! とか、親が一生懸命働いて得たお金をなんだと思っているんだ! って」

 

久美子さんが、先生、なかなかいいことを言う、と思って聞いていると

 

「そしたらさ、同じ部屋のやつら、オレはあんなにお金ないからなー、親にも言いづらいしなー、って言いだして、今までそんなこと言ってなかったのに、結構同じ思いのやつもいたよ」

 

少し吹っ切れたような息子の顔を見て、こうやって自分で乗り越えていく年頃なのかもしれないと思い、久美子さんは、あえて何も伝えませんでした。

 

教育費の準備はどこの家庭にとっても大切なことですが、数字からは読み取れないものも少なくありません。

 

中学生になって初めて経済的な格差を実感することや、友だちと比較してしまうこともあるかもしれません。しかし、そこで自分を卑下することなく、友だちと異なる価値観を認め合えるような関係を築くことができたなら、きっと最高の6年間になることでしょう。

 

 

石川 亜希子

AFP