一般的なばんそうこうに傷を早く治す効果はありません。基本的な機能は、傷口を外部の刺激から守ることです。少し高価なばんそうこうを使うと、傷を治すために分泌される体液を保持して早く治す効果も期待できますが、劇的に早く治癒したり、大けがのときに頼ったり……そこまでの期待はしないでしょう。しかし、現在開発されているばんそうこうは、従来のもののイメージを大きく覆します。今回は、ばんそうこうの最新技術をみていきましょう。
電気の力で25%治癒を早める…患部にペタッと貼るだけ「ばんそうこう」の最新技術 (※写真はイメージです/PIXTA)

電気刺激以外の方法による治療も

電気刺激以外の方法で皮膚を治療する研究もされています。ノースウエスタン大学では、抗酸化作用や抗菌作用を持つ化合物による薬剤の投与ができるスマートばんそうこうが研究されています。

 

ほかにも、英国サウサンプトン大学の研究チームは、紫外線を使用して傷を滅菌するスマートばんそうこうの開発を進めています。

 

ペンシルベニア大学とラトガース大学の研究者が開発中のスマートばんそうこうは、抗生物質を遠隔で投与できる試みも行われており、感染が発生した際に早期に検知して治療をすることで、傷跡の形成を防ぐ効果が期待されています。

 

さらに、英サウサンプトン大学の研究チームでは、アトピー性皮膚炎を対象にセンサーで皮膚の水分の状態を観察するスマートばんそうこうの開発に取り組むなど、スマートばんそうこうを傷以外の治療にも活用する研究も進んでいます。

心臓に貼るばんそうこうで心臓病を治療

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

研究が進んでいるのは、スマートばんそうこうのように体の外側の傷に貼るものだけではありません。ばんそうこうと同じように臓器の表面にペタッと貼るだけで、病気を治すことを目指しているのが、「iPS細胞シート」です。

 

その代表的なものが、iPS心筋シート。「心臓のばんそうこう」とも言えるiPS心筋シートは、世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、ノーベル医学生理学賞を受賞した山中伸弥教授と大阪大学澤芳樹名誉教授が協力し、10年以上の歳月をかけて開発されました。

 

身体のあらゆる部分の細胞をもとに、さまざまな臓器の細胞になる能力を持つのがiPS細胞です。

 

iPS心筋シートは、足から採取した細胞でiPS細胞を作成したうえで培養して増やし、心臓の筋肉細胞に変化させ、できあがった3,000万個にもなる心臓の細筋肉細胞がシート状になったものです。人の心臓と同じ構造の細胞で作られており、実際にも心臓と同じ働きをするため、体温に近い温度になると心臓のように自然と動き出します。つまり、心臓と同じ種類の細胞が同じメカニズムで動くのです。

 

この心臓のばんそうこうを使って、どのように治療をするのでしょうか。心筋梗塞などを起こした患者の心臓は一部が壊死してしまい、十分に機能しなくなった状態である心不全になることが多々あります。心臓のばんそうこうは、こうして心不全になってしまった患者の胸を開いて、動いている心臓の表面に貼り付けるだけなのです。貼り付けると接着剤の役目となるたんぱく質が発現し、15分程度で心臓に癒着。その後、半日程度で心臓からシートに血管が生えて、その血管を通して心臓が元気になる物質が分泌され、心臓の動きが回復するのです。シートを剥がす必要はなく、手術から3ヵ月程度で、心臓の機能は日常生活に支障のないレベルまで回復します。

 

実際にこの治療を受けた患者は、以前は日常生活でも肩で息をするような状態でしたが、治療後はゴルフをワンラウンド回っても、まったく問題がないそうです。現在は臨床治験の段階ですが、2024年内には薬事申請を行い、2025年の承認をめざしているようです。同様に、iPS細胞で作成したシートによる治療は、紹介した心不全の以外にも、目の加齢黄斑変性や角膜、網膜などの病気の治験も進んでいます。

可能性が広がる「貼る治療」の未来

近年では、傷が治る過程のより詳細なメカニズムの研究も行われています。そのひとつとして、傷などによって炎症を起こしている組織の温度は上昇し、同時にその温度が傷の修復を早めるための信号になっていることが発見されました。この発見により、スマートばんそうこうのようなデバイスを用いて、傷に赤外線レーザーや電気などで温度変化をさせることで、体の深部にできた損傷や、老化に伴って治癒しにくくなった傷の修復の誘導に応用することなども考えられます。

 

貼るだけで治療ができるテクノロジー。その進化に今後も期待しましょう。

 

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<著者>

関根昭彦

医療ライター。大手医薬品メーカーでの医療機器エンジニアや医薬品MRなどを経て、フリーランスに。得意分野は医療関係全般。