一般的なばんそうこうに傷を早く治す効果はありません。基本的な機能は、傷口を外部の刺激から守ることです。少し高価なばんそうこうを使うと、傷を治すために分泌される体液を保持して早く治す効果も期待できますが、劇的に早く治癒したり、大けがのときに頼ったり……そこまでの期待はしないでしょう。しかし、現在開発されているばんそうこうは、従来のもののイメージを大きく覆します。今回は、ばんそうこうの最新技術をみていきましょう。
電気の力で25%治癒を早める…患部にペタッと貼るだけ「ばんそうこう」の最新技術 (※写真はイメージです/PIXTA)

電子回路で傷をモニタリングし、電気刺激で治癒を促す

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

まずは、スマートばんそうこうが、どのようなものなのかをみていきましょう。

 

スマートばんそうこうには、パッドやテープの部分に傷の状態や治癒の進行をモニタリングするセンサーや、電気刺激を送ったり、薬などを投与したりするためのデバイス、データを無線で送信する小型装置などが組み込まれています。従来のばんそうこうよりも短い期間での傷などの治療が見込めるのです。

 

これらの高度なテクノロジーは、軽い切り傷や擦り傷には必要のないケースが多いでしょう。しかし、病院での治療が必要なほどに重傷の褥瘡(じょくそう:同じ姿勢で寝たきりになるなど、皮膚が床に接して圧迫されることで生じるもの。床ずれとも呼ばれる)や、潰瘍(かいよう:病気のために粘膜や皮膚の表面が炎症を起こして崩れ、できた傷がえぐれたようになった状態)、長期ケアが必要な慢性化した傷などには、非常に役立つと考えられています。

 

すでに、海外ではいくつかのスマートばんそうこうの開発が進んでいます。その多くは、まだ初期段階ですが、試作品が発表されているものもあります。

 

そのなかのひとつである米スタンフォード大学の研究者らが発表したスマートばんそうこうは、センサーが傷の状態をチェックし、そのデータをもとに傷口に貼った電子回路が電気刺激を送ることで治癒を促し、傷痕の形成を抑えながら皮膚の再生を助けることを目指しています。ばんそうこうの本体には、マイクロコントローラーやバイオセンサー、メモリー、電気刺激装置、無線アンテナなどが搭載され、これらは柔軟なポリマー※であるハイドロゲルの上に配置されています。

 

※分子量の大きい分子。多数の繰り返し単位からなる高分子化合物のこと。「重合体」とも呼ばれる。ポリスチレンのような身近な合成樹脂から、DNAやタンパク質のような生物学的な構造や機能の基礎をなす天然の生体ポリマーまで多岐にわたるが、ここでは、合成樹脂を指す。

 

厚さは100ミクロン(0.1mm相当)と非常に薄く、直接皮膚に貼り付けられるようになっています。皮膚と接する部分は、必要なときにしっかりと接着し、体温より少し高くなると簡単に剥がれるように設計されています。これにより、傷をしっかりと治療すると同時に、治療完了後もばんそうこうを貼ったまま、といったことが避けられます。また、汗をかいても剥がれず、センシング機能にも影響はないそうです。

 

このスマートばんそうこうでは、微弱な電気を流して傷の治癒を促進する「電気刺激療法」が使われています。皮膚に微弱な電気で刺激を与えると血管が拡張し、血流が促進されることで傷の部分に酸素や栄養が供給され、治癒が促進されます。加えて、細菌感染の抑制や皮膚の最も外側である角化細胞の移動やコラーゲンの生成を促すことで、傷痕になることを防ぐなどの効果もあります。

 

つまり、スマートばんそうこうで電流の流れにくさや温度をモニターし、傷の状態をリアルタイムで把握したうえで適切な電気刺激を行うことで、回復時間が短縮されて感染リスクが減少し、よりきれいに治療ができる。従来のばんそうこうに比べて傷を短期間で、いい状態に治療することが望めるのです。

 

実際にマウスを使った実験では、スマートばんそうこうが傷の電流の流れにくさと温度を継続的にモニターし、傷の状態に合わせた電気刺激を提供できることが実証されています。その結果、従来のばんそうこうと比較して、25%以上も早く治癒が進むことが確認されています。