子どもが巣立ち、あとは夫婦2人で長い老後をどう生きていくか考えるだけ。そう思って老後資金の計画を立てたものの、想定外の事態が発生しその計画が崩れてしまった……。こんなケースは少なくありません。長寿化が進む日本では、自分の年金生活と親の介護生活が同時に訪れることも想定しておかなければなりません。今回は、年金繰下げを決めて「老後は安泰」と安心していた佐藤さん夫婦に訪れた危機を例に、南真理FPがアドバイスを交えて解説します。
このままじゃ親子共倒れだ…。65歳元会社員、“年金増額計画”で余裕の老後を確信も、状況を一変させた「老母からの電話」【FPの助言】
年金の繰下げは取り消せる?
佐藤さんは、まずFPに年金の繰下げの取り消しはできるのか尋ねました。
年金は受給開始年齢である65歳に到達する3ヵ月前に、日本年金機構から年金を受け取るのに必要な年金請求書が届きます。この請求書を提出して初めて年金受給がスタートしますが、佐藤さん夫婦は、年金の繰下げをすることにしたので提出をしていません。つまり「繰下げ待機」のような状態です。今から請求すれば、さかのぼって受給することができます。
66歳以降に受給請求書を提出した場合、繰下げの取り消しや修正は一切できず、一度決まった増額率で年金を受け取ることになります。
つまり、佐藤さんは繰下げの影響は受けずに今から年金を受け取ることもできますし、計画通り繰下げを実行することもできる状態といえます。
親の介護費用はどうしたらいい?
では、親の介護費用についてはどう考えればいいのでしょうか。これは佐藤さんのケースに限りませんが、介護費用は親自身が払うことが基本です。そのためには事前に親の資産を子どもが把握しておく必要があります。把握しておきたい親の資産は以下の通りです。
・株式や投資信託などの有価証券
・生命保険の有無
・不動産
・負債
親が元気で意思もしっかりしている間に、資産状況を共有し、どのような介護を望むのか話し合っておく必要があります。また親の年齢にもよりますが、介護保険なども有効です。仮に認知症などを患うと、意思確認ができなくなり、資産の把握どころか資産を動かすこともできなくなる可能性もあるからです。
生命保険文化センターが行った調査(※3)によると、介護に要した費用は、住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用は平均74万円、月々の費用が平均8.3万円となっています。また、介護期間は平均約5年となっており、約600万円もの費用が必要になります。あくまで平均的な数値であり、受けられる介護サービスや介護期間によってかかる費用は異なります。
費用の支払いが難しい時には、補助制度を活用するのも一つです。例えば、1ヵ月に自己負担する介護サービス利用料は、所得に応じて限度額が決まっています。限度額を超えれば申請することで払い戻し(高額サービス費)を受けることができます。
(※3) 生命保険文化センター「介護にはどれくらいの費用・期間がかかる?」