子を持つ親にとって、数ある心配事のなかでも、子どもの「性被害」に不安を抱く人は多いのではないでしょうか。子どもを性被害から守るために大切なのは、子ども自身が感じた「気持ち悪さ」を親に話せるかどうか、ということ。そのためには、幼少期から子どもが発するメッセージに目を向けることが必要です。英国の心理療法士、フィリッパ・ペリー氏による著書『子どもとの関係が変わる 自分の親に読んでほしかった本』(日経BP 日本経済新聞出版・刊、高山真由美氏・訳)より、詳しく解説します。
愛する子どもを〈性被害〉から守るために、親子のコミュニケーションでやってはいけない「声かけ」【心理療法士が助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

子どもが「何でも話せる相手」になる

ごく幼い子どもはベッドの下にいる幽霊や怪物の話をすることがあります。そういうときは、話そのものにとらわれず、子どもの気持ちに注意を向けましょう。怪物がいるという子どもの考えを即座に切って捨てるのではなく、どんな感情が怪物の形をとって表れているのか、親が言葉にしてみましょう。

 

「あなたは怖がっているみたいね、もう少しその話をしてごらん」とか、「その怪物のお話をつくってみようか。怪物の名前は何?」とか。

 

こうすれば、あなたは問題の怪物を打ち負かすことができるかもしれません。自分の自然な流儀に合ったやり方をしましょう。大事なのは、くだらないとはねつけることなく、子どもが落ち着くまで一緒にいることです。ことによると、その怪物は寝かしつけのときのあなたの苛立ちを表しているのかもしれませんし、あるいは子どもがうまく説明できない何か別の複雑な問題を表しているのかもしれません。感情の出どころがたどれないからといって、その感情が現実のものでないとは言えません。やはり受けとめる必要があるのです。

 

「馬鹿なこと言わないで。怪物なんてつくりものだって知っているでしょう」などと言っても、子どもは自分がおかしいのだろうかと思うだけで、気持ちが落ち着くことはありません。大事なのは、コミュニケーションの回線を開いておくことです。あなたがくだらないと言ってはねつけると、子どもは「くだらない」ことを言わないように口を閉ざすだけでなく、大事なことまで言わなくなります。

 

「くだらないこと」と「くだらなくないこと」の違いは親にとっては明らかなので、子どもにとってもそうだろうと私たちは思い込んでしまいます。しかし何をどう感じるかは、本人にもどうしようもないことなのです。

 

あなたは子どもが話せる一番の相手になるべきなのです。もしあなたが、「おばあちゃんがおいしいスープをつくってくれたのに文句を言うなんて馬鹿ね」と言えば、子どもは変なピアノの先生が脚に手を置いてきたときもあなたに話せなくなるかもしれません。

 

親にとってはこの2つの違いははっきりしていますが、子どもにとってはどちらも「なんか気持ち悪い」の一言でくくれる物事なのです。その「気持ち悪い」物事をあなたが無意味なものとしてはねつけるなら、子どもは恥ずかしい思いをしてまで何かを打ち明けるのはもうやめようと思ってしまいます。

 

おばあちゃんのスープと子どもの脚に触るピアノ教師の違いは歴然としていると思うかもしれません。しかし子どもはまだあなたほど長くこの世界にいないのです。あなたと同じだけの人生経験がなく、性的な物事についてまだ理解していません。嫌いなものを食べるときには警戒しても、不適切な触れられ方をしたら警戒すべきであることはまだ知らないのです。

 

子どもにとってはどちらも感覚への攻撃です。「馬鹿馬鹿しい」と言えば、子どもからあなたへのコミュニケーションを封じこめることになります。それはとても危険なことです。

 

 

フィリッパ・ペリー

心理療法士