立地戦略のなかには、あえて「条件の悪い場所」に進展を立ち上げるという奇をてらうような戦略もあります。悪条件を味方につけ、経営を成功させた方法とは? 本記事では、戦略広報コンサルタントの井上岳久氏の著書『集客が劇的に変わる! クレーンゲーム専門店エブリデイの経営戦略 BAD プレイスでも儲かる理由』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集し、立地戦略とPRの深い関わりについて解説します。
「お祓いしたほうがいい」「もはや呪われてる」…数々の店が潰れた埼玉のいわくつきの場所で、唯一“ゲームセンター”が大繁盛した理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

条件の悪い場所で成功できた理由

私が思うこのゲームセンターが成功したひとつの理由は、「オンリーワン」だということです。パチンコ店がこの物件で失敗したのは、パチンコ店ならば、台数はそこまで多くなくても、駅前などの便利な場所にたくさんあるので、お客さまはわざわざ来ません。ほかのパチンコ店でも十分、同じ楽しみが味わえますよね。

 

しかしクレーンゲームについては、オリジナルの景品が入ったマシンの台数の多さで、確実に差別化ができたのです。お客さまが「この店に来たくて」来店する形態を実現できているのです。こうした形態を「目的来店性」といいます。オンリーワンなので、首都圏はもちろん、全国からお客さまがやって来て、広域商圏をもつ業態にできていることが大きいと思います。

 

社長は埼玉の店舗をつくる時点で、目的来店性の店を頭に描いていました。ですが、それをかたちにするのはなかなかむずかしいことでした。存在していることが世の中に認知されないと、目的来店性になりようがないからです。また、このゲームセンターが最初に注目を浴びたのは、「とくに目立つものも人を呼べるものもなさそうな埼玉の小都市に、ギネス記録をもつゲームセンターがある」というギャップからでした。

 

これは駅前など条件のよい場所に立地していたら、成立しないアピールポイントでした。つまり条件の悪い場所に建っているということは、逆手にとってPRの材料にしてしまえば、ひとつの強みにもなりうるわけです。

 

条件の悪い場所ならではの魅力とは?

加えて条件の悪い場所ならではの、お客さまを引き付ける魅力もあるように思います。

 

たとえば東京ディズニーランドはどうでしょうか。都心からそこそこ離れた浦安という場所にあり、開業当時は東京湾の海岸地帯で、周囲にはほかに何もない条件の悪い場所だったといっても過言ではありません。しかし、開業から40年以上経ったいまでも、人気は衰え知らずです。それはもちろん東京ディズニーランドというコンテンツ自体の魅力が絶大だとしても、都心から離れた場所に行く、すなわち条件の悪い場所まで出かるという行為も含めて、消費者の楽しみになっているとはいえないでしょうか。行列に並んでようやくおいしいラーメンにありつけるといったことと、共通する消費者心理があるかもしれません。

 

もしも東京ディズニーランドが都心近くにあったとしたらどうでしょう? 行きやすさは高まるとしても、特別な場所に行くという神聖さは薄れてしまうのではないでしょうか。わざわざ浦安まで行かなければ味わえないからこそ、特別な体験になる。日常から離れた場所だからこそ、日々のわずらわしさを忘れて、無心でその世界に没入できるといったことが人にはあると思います。アミューズメントにはそれも重要な要素、あるいは味付けになるのではないでしょうか。クレーンゲームという少しマニア性のある素材と条件の悪い場所は、相性がいいような気もします。

 

つまり素材によっては、条件の悪い場所もひとつの価値になるのではないか、というのが私の考えです。

 

 

井上岳久

戦略広報コンサルタント