立地戦略のなかには、あえて「条件の悪い場所」に進展を立ち上げるという奇をてらうような戦略もあります。悪条件を味方につけ、経営を成功させた方法とは? 本記事では、戦略広報コンサルタントの井上岳久氏の著書『集客が劇的に変わる! クレーンゲーム専門店エブリデイの経営戦略 BAD プレイスでも儲かる理由』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集し、立地戦略とPRの深い関わりについて解説します。
「お祓いしたほうがいい」「もはや呪われてる」…数々の店が潰れた埼玉のいわくつきの場所で、唯一“ゲームセンター”が大繁盛した理由 (※写真はイメージです/PIXTA)

メディア出演を機に来店者数を伸ばす

とはいっても、最初からうまくいったわけではありませんでした。開店して数年は大赤字が続きました。何しろ約300台のゲーム機を稼働する電気代だけで、1ヵ月に100万円かかるというのです。再起を図って開店した店舗でしたが、業界全体も右肩下がりのなか、いつ潰れてもおかしくない状況ではありました。

 

話題を生むために、2012年にクレーンゲームの保有台数世界一としてギネス記録を申請し、承認されています。「何か飛び技を」と思って取得したギネス記録でしたが、実は最初はまったくお客さまに響きませんでした。当時のこの会社にはPRのノウハウがなかったからです。PRのノウハウがなければ、せっかくの話題性がある材料でも、宝の持ち腐れになってしまいます。

 

大きな店舗でも店内は閑散としていて、「店に集まってくるのは虫ばかりだった」と社長は苦笑。300台停められる駐車場も大幅にあまってしまい、ラジコンコースをつくろうかと本気で考えていたほどです。転機となったのは2014年4月に、テレビ番組で紹介されたことでした。

 

当時ゲームセンター部門の統括責任者だった社員が、藁にもすがる思いで番組にメールをしたところ、「何もなさそうな埼玉にギネス記録のゲームセンターがある」と、番組が興味をもってくれました。この番組では毎週埼玉県いじりをやっており、彼は仕事から帰宅して夕飯を食べるときに、この番組をよく見ていたそうです。その週は「埼玉県遊ぶところがない問題」を放送しており、「いや、うちに遊ぶところあるんだけどな」と思い、視聴者としてエブリデイのことを投稿。すると忘れたころに番組から連絡がきたそうです。

 

「ギネスをとったけどお客さんが全然来ない」という、ちょっと自虐的な切り口も話題になり、ゴールデンウィーク直前だったこともあって翌日は開業以来、初めて駐車場が満車になったといいます。駐車場のふだん使っていなかった部分には、不法侵入しないように金属製のチェーンが張られており、止めていた南京錠があまりに長いあいだ開けていなかったため、錆びて開かなくなっていました。「えらいこっちゃ、即座にチェーンを切断せえ!と、大声で社員に叫んだ記憶があります(笑)」と社長は回想します。

 

これがメディアの威力で、このときはなかば無自覚に呼び込んだ幸運でしたが、これを自覚的に狙って起こしていくのが、広報(PR)の効果です。ただ、これが番組に1度出ただけだったら、ずっと定着はせずに、ある程度の期間が過ぎたら一過性のブームでおわり、水が引くように客足も引いていったことでしょう。しかしそうはなりませんでした。来店者数を順調に伸ばし、その後、店舗を増やすようになっていくのです。

 

その裏には、テレビ番組での紹介をきっかけにPRの重要性に気づいき、PRに力を入れはじめたことがありました。