「結婚して所帯を持ったらマイホームを持つことは当たり前」「家こそ幸せの象徴」…かつては多くの人がこのように考えていたものです。しかし、やっとの思いで手に入れた家が原因で老後に苦しむケースもあるようです。今回はまさしくそんな状況に陥った65歳年金暮らしの男性の事例を、小川洋平FPが解説します。
念願の一戸建てを購入し「これで俺も一人前」と幸せを噛みしめたが…25年後、年金生活に突入した65歳・元会社員に市営住宅への転居を決断させた「厳しい現実」
夢のマイホーム購入も、定年後に厳しい現実に直面
渡辺正さん(65歳)は長年勤めた会社を退職し、今は年金を受け取りながらアルバイトで生活しています。
現役時代は地方の中堅企業で長年勤務し、ようやく40歳で夢の一戸建てを購入しました。当時は同期や子育て世代の友人達も住宅ローンを組みマイホームを買う人が多く、渡辺さんもマイホームを買うことが「人並みの幸せ」と信じて疑いませんでした。
家計は決して楽とはいえませんでしたが、月々の返済計画も「賃貸の家賃を払うよりローンを払って自分の物になった方が良い」「今は大変だけど、これから給料も増えるだろうし」「何より家を買ってこそ一人前。社会的な信用も得られる」と考えて購入を決めたのでした。
少し背伸びして手に入れたマイホーム。当時は狭い賃貸住宅から広い部屋のある家に引っ越すことができ、妻も子どもたちも喜んだものです。ローンの返済負担は大きかったものの、それでもかなりの満足感がありました。
しかし、その後しばらくして当時の不況の影響を受け、渡辺さんの勤務先では昇給がほとんどなくなりました。賞与も減額されてしまい、手取りの収入はほとんど増えることがなかったのです。
それに加えて、2人の子どもたちの教育費もかさみます。こうした理由で現役の頃はギリギリの家計でなんとか生活をしていて、満足に貯蓄ができる状況ではありませんでした。そして、そうこうしているうちにほとんど預貯金の無いまま定年退職を迎えることに。退職後は、アルバイトで毎月10万円程度収入を得ながら生活していくことにしたのでした。
65歳時点での貯蓄は世帯で500万円ほど、退職金も500万円程度の金額で、住宅ローンは1,500万円程残っている状況でした。