「結婚して所帯を持ったらマイホームを持つことは当たり前」「家こそ幸せの象徴」…かつては多くの人がこのように考えていたものです。しかし、やっとの思いで手に入れた家が原因で老後に苦しむケースもあるようです。今回はまさしくそんな状況に陥った65歳年金暮らしの男性の事例を、小川洋平FPが解説します。
念願の一戸建てを購入し「これで俺も一人前」と幸せを噛みしめたが…25年後、年金生活に突入した65歳・元会社員に市営住宅への転居を決断させた「厳しい現実」
賃貸の方が合理的。マイホーム購入で注意すべきこと
昔に比べれば考え方も多様化していますが、それでも結婚して家庭を持ち子どもが生まれるタイミングでマイホームの購入を考えるという方は少なくありません。
住宅会社の広告では「月々〇万円~」「家賃と同じくらいの金額でマイホームが手に入る」などのフレーズでマイホーム購入を促すものも多いです。しかし、その裏には住宅ローンの毎月の返済額だけでなく、マイホームには見えないコストが多数存在します。
固定資産税は毎年発生し、火災保険料も賃貸の保険料よりも高くなります。キッチンやトイレ、バスルームなどの設備のメンテナンスや入れ替えも、持ち家では当然自分で負担する必要があります。一方で、賃貸住宅ならば入居者が負担する必要はなく所有者が行うことになります。今回渡辺さんがマイホームを手離すきっかけとなった、屋根や外壁の塗装費用なども負担する必要はありません。
また、賃貸であれば、子どもたちが独立するなどライフステージの変化に応じて引っ越しができて家賃を抑えることができますし、転職を考える場合などでも「自宅から通える場所」といった条件を気にする必要もありません。
そういった意味では、経済的に無理をしてまでマイホームを購入して後々苦労するよりも、賃貸住宅を選びライフステージに合わせて柔軟に住み替えていく方が合理的と言えるでしょう。
マイホームは資金的に十分余裕があり、家族の人生をより豊かにしてくれるものと確信できるのであれば、経済的合理性はあまり考慮せずに購入するとよいでしょう。しかし、仕事が辛くて転職を考えているが住宅ローンがあるから辞められない、ローンの返済が大変で老後の資金が準備できずに人生の豊さを損なってしまいそうなど、マイホームが理由で大事な人生の選択肢を犠牲にしてしまうようでしたら、予算を見直したり、購入を控えたりした方がよいでしょう。
長い人生では何が起きるかはわかりません。勤務先が倒産する、離婚するなどでマイホームから離れなければならないことも起き得ることです。そういった場合にも売却しやすい条件で選ぶことも考慮しておく必要があります。
また、昨今では金利上昇による住宅ローンの負担の増加も懸念されています。現在の日本の状況ではなかなかイメージし難いものではありますが、今後経済が活性化し、企業が事業への投資を活発に行うような状態になれば、毎月の返済額が大きく増えるほどに金利が上昇する可能性もあります。変動金利で借りる場合には金利上昇時に繰り上げ返済することができるように同時に繰り上げ返済資金を準備することも大切です。