ニッセイ基礎研究所が被用者を対象に実施した「被用者の働き方と健康に関する調査」によると、およそ4割(2024年調査では40.2%)の人が「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と感じていた。よくない内容を尋ねた結果、「冬、職場が寒い」が最も高く、次いで「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「機械類の音がうるさい」が続いた。それぞれ、どういった人が職場の作業環境のどういった内容によくないと感じているのか、ニッセイ基礎研究所の村松容子氏が解説する。
職場における温度、匂い、音等は、どういう人がシンドイと思っているのか (写真はイメージです/PIXTA)

3.おわりに

今回の調査では、50人以上の事業場に義務付けられているストレスチェックに推奨されている「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を実施している。今回使用した「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」という質問は、「非常にたくさんの仕事をしなければならない」や「高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ」「職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる」などのストレス要因となる仕事の負担項目の1つとして尋ねている質問である。本稿では、このうち、「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と回答した人に対して、よくないと感じている内容を尋ねていることから、今回の結果は、日常的に職場で感じている不満にとどまらず、自分の仕事を遂行する上で影響があるものを回答していると考える。

 

前稿「職場における温度、匂い、音等の問題」でも紹介したとおり、作業環境の負担は、高ストレスに関連しており、従業員の健康維持のためにも、従業員の作業効率を上げるためにも、作業環境の改善は必要だと考えられる。また、今回の結果から、従業員は、会社の健康増進に関する取り組みと関連付けてとらえている可能性が考えられたことから、作業環境の改善は、従業員に対して、従業員の健康を維持・増進し、作業効率を上げようとするメッセージとなり得る。

 

作業環境としてよくない内容として上位にあがった、温度の問題、換気の問題、人の声や機械類の騒音など音の問題は、個々の職場環境に大きく依存すると思われるが、職種や職場にいる時間などにも影響されるほか、性、年齢による傾向もあり得ると考えられた。それぞれの職場の課題や職種による課題の解消も重要であるが、人によって感じ方は異なるため、在宅勤務を活用する等作業場所に自由度を与えること、静かに集中できる場所の確保、室温が整った休憩場所の確保、十分な休養等、検討していくことが重要だろう。

 

Appendix(分析内容・結果の詳細)

1|使用したデータ・変数と分析方法

分析には、ニッセイ基礎研究所が2024年3月に実施した「被用者の働き方と健康に関する調査*2」の結果を使った。

 

まず、「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」について「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の回答にそれぞれ4~1点を配点し、これを被説明変数、性、年齢、所定労働時間、職種(管理職・マネジメント/事務職(一般事務、コールセンター、受付等)/事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)/技術系専門職(研究開発、設計、SE等)/医療福祉、教育関係の専門職/営業職/販売職/生産、技能職/接客サービス職/運輸、通信職/その他)、1日の平均座位時間(3時間未満/3~5時間未満/5~8時間未満/8~10時間未満/10時間以上)、在宅勤務利用頻度(まったくしていない/月に1~3回程度/週に1日程度/週に2日程度/週に3日程度以上(もしくはほぼ毎日))、「勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方である」への回答(「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらとも言えない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」に対して1~5点を配点)を説明変数として、重回帰モデルで分析した。

 

次いで、よくないと感じている具体的な内容について、それぞれに当てはまるかどうかを被説明変数として、上記と同じ説明変数を使って線形確率モデルで分析した。いずれも、本人年収(300万円未満/300~700万円未満/700~1,000万円未満/1,000~1,500万円未満/1,500万円以上/収入はない/わからない・答えたくない)と居住都道府県を調整した。

 

*2:本調査は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象とするインターネット調査で、全国6地区、性別、年齢階層別(10歳ごと)の分布を、2020年の国勢調査の分布に合わせて回収している。調査は毎年3月に実施しており、回収数は5,725だった。

 

2|回帰結果

回帰結果を図表2に示す。まず、よくないと感じている人の特徴として、有意な変数の回帰係数について順にみていくと、年齢が若いこと、職種としては、一般事務等事務職と比べて生産・技能職、接客サービス、所定労働時間*3が長いこと、座位時間*4は、5~8時間の人と比べて3時間未満であること、在宅勤務利用頻度*5は、まったくしていない人と比べて月1~3回程度、または週1日程度であることで高く、在宅勤務利用日数が週3日程度以上(もしくはほぼ毎日)である人で低かった。

 

よくないと感じているそれぞれの内容についても、有意な変数の回帰係数をみると、性別では、女性で「夏、職場が寒い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。年齢では、年齢が高いほど「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」が高く、年齢が低いほど「冬、職場が暑い」「照明がまぶしい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。職種では、一般事務等事務職と比べて、市場調査、財務、秘書等事務系専門職で「電話や人の声がうるさい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。また、医療福祉、教育関係の専門職、営業職、販売職で「冬、職場が暑い」が低い。販売職では、「他の従業員との距離や近すぎる等レイアウトに問題を感じる」が低い。生産・技能職で「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「照明が暗い」「機械類の音がうるさい」が高く、「電話や人の声がうるさい」「デスクや椅子のサイズがあわない」「他の従業員との距離や近すぎる等レイアウトに問題を感じる」が低い。運輸、通信職では、「冬、職場が寒い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高く、「照明がまぶしい」「デスクや椅子のサイズがあわない」が低い。その他で、「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「照明が暗い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。所定労働時間が長くなるほど、「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」が高い。座位時間をみると、3時間未満で5~8時間の人と比べて「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「機械類の音がうるさい」が高く、「デスクや椅子のサイズがあわない」が低い。8~10時間の人で「冬、職場が暑い」が、10時間以上の人で「電話や人の声がうるさい」が高い。在宅勤務頻度では、在宅勤務をまったくやっていない人と比べて、月1~3回程度、または週1日程度で「冬、職場が暑い」「照明が暗い」が高い。一方、週2日以上(週2日程度と、週3日程度以上(もしくはほぼ毎日))の人で「夏、職場が暑い」が低い。また、週3日程度以上(もしくはほぼ毎日)の人で「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」が低い。

 

なお、「勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方である」にあてはまるほど、「冬、職場が寒い」「夏、職場が暑い」「換気が悪い」「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」「デスクや椅子のサイズがあわない」が低い。

 

*3:対象者全体では、今回の調査で7時間未満が約3%、7~8時間が約77%、8時間超が約20%だった。

*4:1日の座位時間は、3時間未満が16.4%、3~5時間未満が21.4%、5~8時間未満が29.6%、8~10時間未満が16.1%、10時間以上が16.5%だった。

*5:在宅勤務頻度は、「まったくしていない」が73.4%、「月に1~3回程度」が4.9%、「週に1日程度」が5.7%、「週に2日程度」が6.2%、「週に3日程度」が 3.2%、「週に4日程度」が2.1%、「毎日(もしくはほぼ毎日)」が4.5%だった。