国家主導の宇宙開発から民間企業主導の宇宙ビジネスへ
宇宙ビジネスに熱視線が注がれるようになった背景には、かつての国家主導の宇宙開発から民間企業主導の宇宙ビジネスへと切り替わったことがあります。宇宙開発を「オールドスペース」、宇宙ビジネスを「ニュースペース」と呼ぶこともありますが、プレイヤーの変化は革命的な転換をもたらしています。
民間企業はコスト意識が高く、その努力によって打ち上げコストの大幅な削減が続いています。部品を安価な民生品に置き換える、ロケットの一部を回収し再利用するなどの技術革新が続いています。1980年代には1キログラムの荷物を低軌道にまで送りこむために必要なコストは約10万ドルでしたが、現在では2000ドル前後にまで低下しています。
打ち上げコストも劇的に安くなりましたが、荷物、すなわち人工衛星の軽量化、小型化も進んでいます。小さな箱程度の超小型人工衛星まであるほどです。そうした小型衛星を大量に打ち上げて運用する衛星群(コンステレーション)という手法も確立されました。安価でありながらも高いパフォーマンスが発揮されるようにもなっています。衛星群活用で代表的な企業が米スペースXのスターリンク社です。現在、6000機もの衛星を運用していますが、最終的には4万機以上を打ち上げる計画です。
テクノロジーの進化がもたらしたコストの削減によって、コスト度外視の国家事業から企業が取り組むビジネスへと転換する下地が作られたわけです。
次世代産業として宇宙ビジネスを掲げる台湾
これまでは欧米が牽引してきたニュースペースですが、今後は東アジアのキャッチアップが予想されます。というのも、人工衛星は電子機器の塊です。電子機器の製造、量産は東アジアが強い分野だからです。
スマートフォンやパソコンの受託製造で知られる、台湾の鴻海(ホンハイ)は人工衛星の製造にも進出しました。昨年12月にはその人工衛星が打ち上げに成功しました。アップルが設計したiPhoneの製造を請け負ったように、世界の宇宙ベンチャーが必要とする人工衛星の製造を代行するビジネスに可能性を見いだしています。ホンハイだけではなく、オール台湾の取り組みも目立ちます。今年5月に就任した頼清徳新総統は次世代産業として宇宙ビジネスをあげるなど、台湾全体でこのニュービジネスで取り組む戦略を示しました。半導体製造で成功したように、宇宙ビジネスでも台湾の価値を高めたいと考えています。