パリ五輪が7月26日(現地時間)に開幕しました。夏季競技の中でも注目の「水泳」は8月4日(現地時間)に競技最終日を迎え、メダル獲得最多となったのはアメリカで28個を獲得。日本からも、カムバックを果たした池江璃花子選手や、本田灯選手、大橋悠依選手が出場しました。そんな選手たちの活躍を支えるのが競泳水着のテック。水面下で選手たちを支える競泳水着の進化とテックについてお届けします。
パリ五輪開幕! 注目の水泳を水面下で支える競泳水着テック (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

かつて世間を賑わせた「高速水着」

水泳競技の国際大会では、選手たちの「水着」も、世間の注目を集めてきました。2008年、レーザー・レーサーという「高速水着」が世間を賑わせたのを覚えているでしょうか。イギリスSPEEDO社が開発した競泳用水着で、NASAやオーストラリア国立スポーツ研究所など多くの専門家が開発に携わり誕生しました。2008年の北京オリンピックでは、トップクラスの選手の多くがレーザー・レーサーを採用。世界記録やオリンピック記録更新が軒並み更新され、世界記録だけでも23個塗り替えられました。着用した全員が記録を更新したわけではありませんが、高速水着着用の影響は明らかでした。

レーザー・レーサーは、水の抵抗を無くすため縫い目がなく、撥水性に優れ、極薄で軽量ながら締め付ける力が強いのが特徴です。第二の肌のようにしっかりフィットしながら体を流線型に整えることで、トップ選手もさらに水の抵抗から自由になりました。その圧縮力は、着用するのに30分以上かかるといわれるほど。

「抵抗低減」型のレーザー・レーサーに追いつけ追い越せと次に登場したのが、ウェットスーツ素材を使用し体に浮力を持たせる「ラバー水着」です。泳ぎに疲れてきても浮力のおかげで高位置での泳ぎをキープでき、結果、水の抵抗を軽減。ラバー水着が席巻した2009年の世界水泳では史上最多、43の世界新記録が樹立されました。そしてトップ選手たちが着用したラバー水着の大半で、日本の山本化学工業の「バイオラバースイム マークⅡ」が使用されていました。この素材はその組織形状や大阪発ということから、「たこ焼きラバー」なる愛称で注目されます。

しかしこの「高速水着」は2010年、国際水泳連盟によって事実上禁止されることになります。当時、男性は肩から足首まで覆う水着が許可されていましたが、ルール改定によりへそ下から膝までに。女性も肩から膝までになり、水着が体を覆う表面積が小さくなりました。生地は織物に限定され、重ね着やテーピングは禁止、厚さや浮力も制限。分厚かったラバーの高速水着は、誕生から程なく、姿を消すことになりました。

とはいえ、それら高速水着が去った後も、各社はスピードを追い求め、次世代の高速水着開発を続けてきました。競泳陣の泳力向上には、各人の努力だけでなく、常に競泳水着の技術革新が寄与してきたのです。また、これら高速水着がどのように泳ぎに寄与したかを分析することで、技術向上が叶えられた部分もあるとされます。