コロナ禍をきっかけに首都圏から地方への移住に注目が集まっています。物価も安く、人混みのない自然豊かな田舎で余生を過ごしたいと考えてリタイア後に移住を考えるシニアもいますが、「こんなはずではなかった」と後悔するケースも少なくありません。今回はまさしくそんな状況に陥った65歳男性の事例を小川洋平FPがお伝えします。
「人が多い、暑い、物価も高い…東京にはもうウンザリだよ」…静かな生活を求めて地方に移住した〈年金11万円の65歳男性〉が半年後に大後悔した切実な事情【FPの助言】
地方暮らしの現実に「もう限界…」いったいなぜ?
移住した当初は順調でした。町内会の集まりなどで多少は煩わしい部分があるものの、近所の人とも挨拶を交わす程度。人付き合いが好きではない木村さんにとって、多くのコミュニケーションを取らずとも生活できる快適な環境でした。都会に比べて地方は不便というイメージもありますが、少し車を走らせればスーパーもあり、のびのびと過ごすことができていました。
しかし、半年ほどたち本格的な冬が訪れると、地方での生活の大変さが身に染みてきたのでした。木村さんが引っ越した地域は山沿いの雪が多い地域だったので、冬になると雪の処理が大変です。自宅前の広いスペースを大雪の日は2時間も掛けて除雪しなくてはなりません。また、屋根の雪が1m以上積もることもあり、その度に自分で屋根の上に上がって雪下ろしをしなくてはなりません。期待していた「のんびり」とは程遠い毎日です。
また、夏はあっという間に終わり、長い冬が訪れます。とくに寒い1月~2月頃の光熱費は独り暮らしにもかかわらず1か月で4万円を超えてきます。車が必須のエリアなので中古車を購入しましたが、そのローンの返済が毎月2万円程度。コンパクトカーでも毎月のガソリン代は1万円弱掛かります。雪が降るのでスタッドレスタイヤも必須。さらに、自動車保険料も新規で契約したため毎月1万円近くの支払いとなり、負担になっています。
東京は何かと物価が高くて地方のほうが買い物も安くなると思っていたのですが、実際には思っていたほど大きな差はありませんでした。店の選択肢が少ないうえ、安めのスーパーは距離が遠く、結局近場にある普通のスーパーで買い物を済ませることがほとんどでした。
寒い時期には暖房を入れても広い戸建ての台所は冷え込み、自炊もおっくうでスーパーの総菜を買って済ますようになりました。その結果、食費も独り暮らしで毎月6万円程度必要になり、当初考えていたよりも生活費の支出が大幅に増えてしまったのでした。
そして、当初はほどよい距離を保ちうまくやれていた近所との付き合いも、だんだん負担に感じるようになってきました。冬場には雪のやり場に困って道路脇に出していましたが、それを見た近所の人が「除雪の仕方が雑で車が通れない」などと注意し始めたのです。
木村さんからすれば、ほかの家も道路に雪を出しているし、自分の除雪方法と何が違うのかよくわからない。自分ばかりが文句を言われているように感じてしまいました。周囲を気にしなくていいと考えていたのですが、地方ではよりコミュニケーションが必要となる場合もあります。
そして、車で15分程度の勤務先に通うのも冬場は30分以上かかることも多く、安い賃金のために毎日慣れない雪道を通勤するのも嫌になってきました。
「もう限界。自分は都会の方が合っているのかもしれない」。地方でのはじめての冬を過ごした後、東京に戻りたいと思うようになりましたが、移住にあたってアルバイトも辞め、車も買い、手元にあまりお金は残っていません。年金11万円で収入が無ければ生活は難しいものです。
ここにいれば少なくとも家賃は2万円。住むところがあるから生きてはいける……。結局、今でも悩みながら地方での生活を続けているのでした。