繊細すぎたり敏感すぎたりする傾向を持つ「HSP(Highly Sensitive Person)」。心理学上の概念で疾患ではないため「治療」の対象にはなりませんが、そのような気質を持った人が少しでもストレスや悩みを軽減させるための工夫や解決策とは? 本記事では、精神科医の西脇俊二氏の著書『繊細な人をラクにする「悩み時間」の減らし方 』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集して、事例別に解決策を紹介。第2回目のテーマは「自己評価が低い人への処方箋」です。
自己評価が低いのは実は「自分への期待」が高いから? 責任がある仕事から逃げてしまいがちな人に役立つ「課題分析」という武器【精神科医が解説】
リアルな実力を見積もって天井を低く設けがち
どちらかというと謙虚で控えめ――。自分の性格をそう捉えている方も、皆さんの中には多いと思います。その理由は、完璧主義のせいで、自分の欠点が目につきやすいからです。
謙虚さは一見良いことのようですが、損することも多々あります。たとえば、人から見たら十分上手にできていることを「いえいえ、私なんて全然ダメです」と卑下しすぎて、「イヤミ?」と捉えられてしまったり。
もっと大きな損もあります。自己評価が低すぎて、高い目標を設定できないことです。子供のころ、習い事で「頑張れば賞が取れるよ」と言われても、「私は競争なんてしたくない」と、尻込みしたことはありませんか? 10代のころ、本当は絵を褒められたのが嬉しかったのに、普通の大学だけを受験したことはなかったでしょうか。
もちろん「競争はイヤだ」という考え方も、尊重されるべきです。でも、本音のところはどうでしたか? 「どうせ、私なんかには無理だ」と思っていたのなら、それは明らかに「機会損失」です。自分の実力を低く見積もって目標を控えめにすると、結果も控えめになります。それは、先々の可能性を狭めることになりかねません。
習い事や大学なら、まだ若いですから、別の機会でやりなおしもきくでしょう。しかし、大人になっても相変わらず、同じクセがあるなら……? 仕事のチャンスを逃すかもしれませんし、意外なところでは、恋愛での失敗も増えます。
「ちょっと価値観が合わないけれど、せっかく誘ってくれたんだし」「今一つわかり合えていないけれど、やっとできた彼だし」と妥協的にパートナーを選び、最終的にひどい別れ方をして、恋愛そのものが怖くなってしまう―自己評価の低い人が陥りがちなシナリオです。もし心当たりがあるなら、自己評価を高める練習を始めましょう。
それには、「自分に期待しない」が効果的です。「逆じゃないの!?」と言われそうですが、これが一番の処方箋です。自己評価が低いのは、自分への期待が強すぎて、しょっちゅう自分にダメ出しをしてきたからです。期待を解除すれば自分をフェアに見られて、適度な自信が備わり、恐れも解除され、実力に見合ったチャレンジができるようになります。
ただ、前述の通り、これは習得までに時間がかかります。そこで、簡易な方法を一つ紹介します。「褒められた経験」を、一つでも多く思い出してみましょう。親、学校の先生、友人、同僚、先輩後輩、上司、誰から言われたことでも良いので、過去から現在まで、書き出してみましょう。……どうでしょうか? おそらく、素直に認められないものが大半でしょう。
「それくらいで褒められても」「まぐれだったんだけど」「買いかぶられてる」「これは見当違いだから」と、反論がたくさん出てくると思います。
お気づきでしょうか? それこそが、低すぎる自己評価のバイアスです。「それくらいで褒められても」は、期待値が高すぎて目が曇っている証です。
「まぐれ」「買いかぶり」「見当違い」も同じです。そのときたしかに、相手にはそう見えたのです。相手から見て素晴らしいことを、あなたはたしかにできていたのです。
バイアスが重症だと、「気の毒だと思って大げさに褒めてくれたんだ」「慰めるつもりで美点を捏造してくれたんだ」という発想も出やすくなります。しかし、それこそが捏造なので、無視してください。自分に対してどれくらい偏った判定を下してきたか、気づきましょう。
かつて自分で性急に却下してしまった成功体験と、もう一度向き合いましょう。きっと、知らなかった自分の可能性が、少しずつ見えてきます。