大きい仕事・責任ある仕事から逃げてしまう

先ほど「自己評価が低いと仕事のチャンスを逃してしまうかも」と書きました。これはすでに、経験のある方も多いのではないかと思います。

新規プロジェクトを任される、昇進を打診される、研修の指導役を頼まれる……など「大きい仕事」のオファーを受けたとき、「私ごときにはそぐわない大役だ!」と勝手に思って、断ってしまったことがありませんか? 次に同じようなことがあれば、今度は「私なんかに務まらない」と決めつけず、落ち着いて考えてみましょう。

まず、「自分が思う自分」の印象にとらわれないこと。相手が大役を頼んできたということは、相手は「できる」と思っているわけです。つまり自己評価よりも、他者からの評価のほうが高いのです。百歩ゆずって、本当に過大評価だったとしても、実は問題ありません。現時点で実力が備わっていなくとも、「役」に成長させてもらえばいいのです。相手はたぶん、それも予測しつつオファーしてきています。

役に就いてから実力を伸ばすことは、方法さえ知っていれば必ずできます。その方法は、第1回目で学んだ「スモールステップ」です。実力が出せないのは、実力がないからではなく、怖かったり不安だったりで尻込みしてしまうからです。そこをクリアするためには、1段を小さくするのが得策です。仕事が動き出す前の準備期間から、細かく分けるクセをつけておきましょう。

仕事の概要を予習するために資料を読むのがおっくうなときは、いきなり読もうとするのではなく、「資料をデスクに置く」「ノートを開く」「ペンを手に取る」「ノートにタイトルだけ書く」というふうに、細かいステップに分けて進めましょう。

仕事が動き出してからのイメージも描いておきましょう。役に立つのが、「課題分析」という方法です。これは我々医師が、発達障害の子供たちに行うアプローチです。繊細な人が「怖い」と感じることを、彼らは「わからない」と感じます。ですから、繊細な人よりもさらに細かい「小分け」が必要となります。

たとえば、ボールペンを分解する、という課題があるとします。そのとき、ただ「分解してみて」と言っても、発達障害の子供たちは困ってしまいます。「キャップを取って、ペン先側の銀色の部分を外して」でも、まだまだ段差が高すぎます。

「ボールペンを(右利きなら)左手に持つ」「右手でキャップを外す」「キャップをテーブルに置く」「右手でボールペンの先端の、銀色の部分を持つ」「それを右向きにひねる」「銀色の部分を外す」「銀色の部分をテーブルに置く」……と、これくらい細かい工程で進めるのです。そうすると彼らは、間違えずにきちんと分解できます。

「カレーを作る」というもう少し複雑なことも、同じ方法で進められます。細かく分解すると、全部で100近い工程になりますが、それを一つひとつカードにしてめくっていくと、独力で、きちんと完成にたどり着くことができます。このやり方を参考に、「手順シナリオ」を作ってみましょう。

仕事の目的、期間ごとの目標などの「大枠」からどんどん細分化していって、「初日の、最初の1時間にはこれをする」というふうに、予定を立てるのです。1時間刻みでも不安なタスクなら、15分刻みでも、5分刻みでも構いません。細分化すれば、怖さは減ります。怖さが軽減すると、どんなタスクでも無理ではない、と気づくでしょう。

細かな手順でしっかりとレールを敷けば、人間、たいていのことはできるのです。ボールペンの分解も、カレー作りも、新規プロジェクトも……宇宙に飛ばすロケットを作ることだってできます。「課題分析」という武器を携えて、新しい場所に打って出ましょう。