建物を原状回復させずに鍵を返却してきた借主に対して、貸主が原状回復工事を終了させるまでは、明け渡しが完了していないとして、賃料を借主に請求できるのでしょうか。原状回復工事が完了するまで賃料が発生するという内容の契約書は、比較的よくある定めですが、実際にトラブルになった場合どのような対応が良いのか、弁護士が解説します。

実務的な解決と予防策:契約書よりも善良な入居者を

「原状回復工事が終わるまで、鍵を受け取らず、賃料請求できるのか?」といのは、主に営業用テナントで裁判例もある状況ですが、居住用の賃貸不動産では、そもそもこのような主張をする前に検討すべき事項があると思います。たとえば、営業用テナントであれば、店舗側も事業規模が大きく、裁判に勝てば損害賠償請求金を受け取れる可能性がある一方、一般的な居住者相手に裁判して勝っても相手に払える金銭があるのか、という支払い能力の問題が浮上します。

 

また原状回復工事金額についても、店舗などの事業用物件と異なり居住物件であれば、金額が大きくなく、そもそも裁判までやってよいのか、という問題にいきあたります。すなわち、一般的な居住用不動産では裁判例にしたがって裁判で争うこと自体が難しく、大家さん側からすれば「泣き寝入り」になるかもしれませんが、争わずに損切りして、早く原状回復して新しい居住者をいれたほうがよい、という判断もあり得ると思います。

 

そうすると、このような状況になってしまった後に被害回復するのは難しく、そもそもこのようなトラブルにならないように、優良な賃借人を見つけてくるというのが一番の予防策になると言えるでしょう。弁護士がいうと元も子もないかもしれませんが、本件のような状態であれば、「居住者に原状回復工事を請求できる契約書に仕上げる」よりも、「そもそもトラブルになりそうもない善良な賃借人を見つける」ことのほうが大事だとアドバイスすることになるでしょう。