藤竜也「私も毎日老いと向き合っている」

■映画『大いなる不在』ストーリー

幼い頃に自分と母を捨てた父が事件を起こして警察に捕まった。連絡を受けた卓(たかし)が妻の夕希(真木よう子さん)と久しぶりに九州に住む父の元を訪ねると、父・陽二は認知症で別人のようであり、父が再婚した義母の直美(原日出子さん)は行方不明になっていた。父と義母の生活を調べ始めた卓は、父の家に残されていたメモや直美が残した手帳を手掛かりに手探りで「父」という謎を探っていく……というストーリー。

――オファーを受けての感想からお聞かせください。

森山未來さん(以下、森山):主人公の卓(たかし)は父とは長い間、離れた環境で暮していたのですが、父が認知症になったことをきっかけに出会うことになります。そういう意味でも、距離感が非常に難しいですし、再会した父はかなり重度の認知症なので、何が事実かが彼の発言からは分からない。ここはサスペンス要素にもつながっているのですが……というふうに言ってしまえば分かるのですが、脚本の構造も時系列が入り組んでいるので、最初台本を読んだときはどこまで自分が理解できているのだろうか? と難しい部分もありました。

でも、近浦監督といろいろ会話をしていく中で紐解かれていきました。ただ、最初オファーがきたときは失礼ながら近浦監督のことをちゃんと存じ上げていなくて、この人はどこから映画の製作費を調達して、どんな映画の製作をしているのか? というのが見えなかったんです。近浦監督にも話したのですが、最初は「胡散臭いな」と思っていました(笑)。

実際に近浦監督とお会いして「クリエイティビティだけではなく、ビジネスの両方を担保することが本当の意味でのインディペンデント映画なんだ」ということをおっしゃっていて、その考え方に惹かれました。そして彼のプロジェクトに参加してみたいと思いました。

――藤さんは近浦啓監督の作品に出演されるのが、今回で3度目ですね。

藤竜也さん(以下、藤):(オファーがきて)嬉しかったです。私が演じた陽二という役は、老いと向き合うという意味では私もその一員です。“老い”の最先端で私も毎日老いと向き合っています。そういう意味では役柄については非常につかみやすかったです。

今回の作品は監督の実体験がかなり入っているということで、ゆかりのある場所を見学させていただいたり、監督のお父上が住んでいた家をロケで使わせていただいたりしました。お父上が読まれていた書物も残っていたので、演じる人間としては大変なインスピレーションをいただきました。実際にこの物語があったであろうというものが、(ロケ現場である)うちにいると降りてくるんですね。そういう意味ではスムースでした。

また、森山さんが演じる卓の微妙な陰影のあるパフォーマンスが、陽二の躁鬱状態のコンビネーションと混ざりあって、きっとうまくいくだろうなと思いました。

(C)2023 クレイテプス 
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