俳優の杉咲花さんが主演する映画『朽ちないサクラ』(原廣利監督)が6月21日に公開されました。柚月裕子さんによる警察ミステリー小説シリーズが原作で、杉咲さん演じる県警の広報職員・森口泉が親友の変死事件の謎を独自に調査し、事件の真相と次第に浮かび上がる公安警察の存在に迫る警察サスペンスミステリーです。泉の上司で、自身も忘れられない過去を抱える元公安の富樫隆幸を演じた安田顕さんにお話を伺いました。
それぞれの立場で「正義」は変わる
――まずは脚本を読んだ感想からお聞かせください。
安田顕さん(以下、安田):まずタイトルを読んで「サクラ」というのはどういうことなのだろう? と。脚本を読み進めるうちに「なるほど、警察のバッジ(警察の旭日章は別名「桜の代紋」と言われる)のことか」と。ページをめくるのが楽しくて、柚月(裕子)さんの原作も読んだのですが、あっという間に読んでしまいました。
――安田さん演じる富樫は、自らも忘れられない過去があり、「今でも自分を責めない日はない」と葛藤と後悔を抱えています。その過去が、「綺麗事じゃあ、国は守れん」という富樫の正義につながっていきますが、安田さん自身は「正義」についてどんなふうに考えていますか?
安田:杉咲さんが演じる森口さんの失ってはいけない正義感や倫理観というのは、富樫が20代や30代のときに同じように感じていた正義感かもしれないですね。でも、富樫は公安として仕事をして生きていく中で、いろいろなものが削られていったんだと思います。それでも、経験だけは誰にも奪えないから、経験の積み重ねが富樫という人間が持っている“覚悟”をつくり上げたんだろうなと思います。
「正義」という言葉は捉えようによっては非常に恐ろしい言葉であって、「好きか嫌いか?」で言えば決して好きな言葉ではないんですけれど……。「正義の味方」がいるということは、敵がいないと成り立たないわけで。怖い言葉だなと思います。
そして、言葉はいろいろな使い方がされるけれど、それぞれの人が持つ経験は嘘をつかないし、それぞれの見える角度で「正義」はいろいろ変わるんだろうなとは思っています。
プラスもマイナスも「人生の彩り」に変わる
――「G60」は主に60歳の人を中心としたニュースサイトなのですが、歳を重ねることについて思うことを伺えればと思います。
安田:僕もまだ50歳になったばかりのぺーぺーなので、やっぱり人生の先輩たちというのはもっともっと経験を積んでいらっしゃると思います。で、これは人によると思うのですが、人を羨む、妬む、嫉む、後悔する……そういうマイナスのことや、それらをバネにして人を称える、褒める、優しさを持って接する……これ全部セットで、おそらくすべてが「人生の彩り」に変わるんじゃないかって思うんですよね。
――マイナスもプラスも?
安田:プラスだけだと、その色の彩りって本当に魅力的な色になるのかな? という疑問もあって。やっぱり「百八の煩悩」があるように、そういったものが人生の彩りに変わっていくような、そんな考え方を持てるように歳を重ねていければいいなと思います。
――確かに生きているからこそ感じられる「刺激」として考えたら、プラスもマイナスも一緒ですもんね。
安田:そんなイメージに近いと思います。だから、自分自身、そういう彩りが自分が生業としている仕事の中にあるというのは本当に幸せだと思います。逆に「普段、何をしていらっしゃるんですか?」と聞かれたら、本当に無駄だなと思える時間を無駄に過ごしています(笑)。
――人生100年時代ともいわれていますが……。
安田:あれですよ、「君のデニムの青が褪せてゆくほど…」という竹内まりやさんの「人生の扉」ですよ。人生100年時代に対して、当時50代だった竹内まりやさんが出した一つの答えだと思っています。年齢を重ねたときにいろいろなことが彩り豊かになっていくことについて、音楽を、言葉を通して伝えてくれているような気がします。
――改めて、安田さん自身は歳を重ねることについて、どんなふうに思っていますか?
安田:楽しいし、苦しいですね。彩りですね。
安田顕(やすだ・けん)
1973年12⽉8日生まれ。北海道出⾝。主な出演作にドラマ「下町ロケット」シリーズ(TBS)、「PICU ⼩児集中治療室」(フジテレビ)、映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』(18)、『愛しのアイリーン』(18)、『私はいったい、何と闘っているのか』(21)、『とんび』(22)、『ラーゲリより愛を込めて』(22)、『アントニオ猪木をさがして』(23)など。