相手によって距離のとり方を変える

どこまで距離を詰めてよいかは人によって異なります。まだ親しくなっていない他人が入ってくることに、全く抵抗のない人もいますし、それが著しく苦手な人もいます。

最近はつきあう人を探すのに、出会い系アプリを利用する人が多いと聞きます。メッセージのやりとりの段階で、いきなりLINEのID交換を依頼したりすると、不必要に距離を詰めてきたと、相手に警戒されることが考えられます。実際に会ってからLINE交換という段取りのほうが、ふんわりしていてよいでしょう。

相手がどのようなタイプかを見極める一つの方法は、言葉数です。反応があまりに少なく、自分を開示してこない相手には、いきなり踏み込んではいけません。今の話題について相手から質問をしてくるのであれば、その話題を進めても問題ありませんが、うまく流れていないと感じたら、違う話題にふったほうが無難です。

相手が閉じているかどうかは、表情や声のトーンからもわかります。明るいトーンで話せるのが一番ふさわしい話題でしょうし、トーンが沈むようであればその話題は触れてほしくないと考えられます。身体から発せられるメッセージで判断していきましょう。

外側は柔らかく見えても、内側は硬い人もいます。一見応対に如才はないけれども、あるところから先に鉄壁のガードがあり、内部に入ってくるものを防御するタイプです。そういうタイプは、防御のためにおしゃべり上手だったりもするので、おしゃべりが盛り上がっているから受け入れてくれている、とは限りません。

そのような時は、急がずに徐々に質問を重ね、こちらも相手に共感を表明しながら、相手がどれくらい共感してくれるのかを図りましょう。

距離感やテンポがわからない時は

時には、「そこから先に入ってこないでください」というサインを出す人もいます。距離感がわからない相手に対しては、個人情報に触れないように会話を進めなければならないので、浅いレベルでできる話題を選ぶのがベターです。

そういう時によい質問は、「サブスクとかやりますか?」です。サブスクは無難且つ、漠然とした質問です。観ている番組や好きなジャンルがあれば、ふつうは具体的な返答があるものです。「いや、そうでもないですね」など、具体の答えがかえってこない場合は、質問が相手に入っていないので、こちらから「私はネットフリックスを観ています」「このドラマがよかった」など、3つくらいの情報を自己開示すると、相手から具体の答えが引き出せるかもしれません。

相手が自分に共感してくれているのかどうかもわからないとなると、つきあいは慎重に、型通りにいったほうがいいかもしれません。人は誰にでも、守りたい、触れられたくないことがあるものです。相手が何を守ろうとしているのかは、わかっておいたほうがよいでしょう。

人が避けたい話題は主に、学歴、お金、仕事上の立場、政治、宗教、家族などが考えられます。その人の中で触れても大丈夫な分野を見つけ、それ以外のところは触らないようにして様子を見ましょう。

相手との距離は、やりとりする時間の間隔によっても調整できます。返信をどのくらい寝かせるかは、人間関係をどう構築するかというメッセージでもあります。相手ごとに、返事の間隔をルール化しておくと、悩む必要がなくなりますから、ストレスは軽減されるはずです。お互いの合意があればゆるやかなやりとりは可能です。

齋藤孝

明治大学文学部教授