昨今はSNSの普及により「他人との適当な距離の取り方がわからない……」という人が増えているようです。人間関係をうまく構築しようと意識するあまり、ストレスが大きくなってしまうことも。本記事では明治大学文学部教授の齋藤孝氏が、心地よい人間関係を構築するコツを解説します。
「丁寧な挨拶」は嫌われる?心地よい「人間関係」を築くうえで、“絶対にやってはいけないこと”【明治大学文学部教授・齋藤孝が解説】
「軽い相談を持ちかける」と人との距離が縮まる
軽い相談を持ちかける、というのもコミュニケーションが活発になるきっかけとなります。人は誘われたり、相談されたりすると、嬉しく感じるものです。相談は信頼の証でもあり、人は信頼の表明にはこたえようとするものですので、
持ちかけられた側は意気に感じて張り切ります。相談を持ちかける/引き受けるという形のコミュニケーションは、温かいものになることが多いのです。ヘヴィな相談はとりあえず置いておいて、「買おうか買うまいか迷っている」など、他愛もない相談だと、初対面でも応じやすくなります。トピックが限定され、自分なりの答えを準備できるので、盛り上がりやすいのです。
距離が取りづらいと思う相手には、相談を持ちかけると心が柔らかくなります。「うまく告白できない」「自分のストロングポイントがうまく見つけられない」など、自分のほうに隙を作ると、相手を引き入れることができます。恋愛対象ではない、親切そうな人にあえて相談を持ちかけることは、コミュニケーション上の工夫と言えるものでしょう。
テンポと距離感は同義「テンポがいいと自然と人が寄ってくる
同じ100分を費やす授業や会議でも、長く感じられるものと短く感じられるものがあります。時間は、伸び縮みするのです。挨拶やスピーチも、テンポよく手短に終わると、相手を心理的に近く感じ、いい時間を過ごしたという印象を抱きます。
楽しくて早く時間が過ぎた、と感じるのが、よい時間の過ごし方です。
私は参加者があっという間の時間だった、と感じられるように、授業や講演の組み立てを意識します。
次々とテンポよく話題や課題を繰り出すことは、現代の時間感覚に合っているのです。
YouTube動画を考えてみても、動画の尺が長くなると視聴者が減る傾向にあります。動画を視聴する人は、ちょっとしたヒントを知りたかったり、全体像に触れたいと思っていたりするので、なかなか自分の欲しい情報が出てこないと、飽きてしまうのです。
テンポは距離感にも置き換えられます。テンポがいい相手には、一緒にいたい気持ちが芽生えやすく、自然と人が寄ってくるものです。
物理的な距離の取り方がピンとこないという方は、時間感覚に置き換えて考えてみるとよいでしょう。
テンポよくことを運ぶためには、漫然と当日を迎えておもむろに取り掛かるのではなく、段取りをきちんと考え、準備して組み立てておくことです。
一方、挨拶や説教がねっちり長く続くと、聞く側は逃げ出したくなるものです。そうすると、その人と上手に距離を取るのが難しくなります。嫌がる相手を無理やり座らせて説教をすれば、心理的距離は遠くなる一方です。
「明るくテンポよく」中高生を飽きさせない授業のポイント
このように、テンポは距離感と密接にかかわっています。教員を目指す学生や実際に教職についている人たちから「どうしたら中高校生がついてくる授業ができますか」と訊きかれた時、私は「テンポを上げる」ことを提案します。
まずは一定の時間内で作業や学習を行わせ、時間の感覚を共有してみます。キッチンタイマーを使ってもよいですが、作業や学習に制限時間を設けることで集中力が上がり、気持ちの切り替えもできるようになります。
しゃべるときも、もたもたしない、ポンポンポンと大事なことを三つほど言う。手短にしゃべる。明るく肯定的なフレーズを使う。うまくいかなかったことを復習する。これは勉強法でも同じです。まずさっと一回、通してみる。次に、一回目に自力で解けた問題を飛ばし、もう一度全体を通してみる。答え合わせをし、寝かせて、またもう一度問題を解く。これを積み重ねてゆけば、問題が少しずつ体に入っていき、三、四周することで、解けない問題がどんどん減っていきます。解いていくたびに少しずつ速度もあがり、時間が三、四倍かかるということはありません。
問題集を使いこなすコツ
コツは、一周目を軽く流すこと、距離の取り方を測ることです。問題集を一冊終わることができない人は、一つ一つの問題にひっかかりすぎているのです。本も同様で、軽めに読み進めると、後半はずっと速く読むことができます。深みにはまることで、脳は自然に流れるようにできているのです。
一つの作業を確実に完璧にできるようになるには時間がかかりますので、私は、「ペンキの上塗り方式」をお勧めします。まず全体を薄くざっと塗り、次にもざっと塗る。大まかにやることを繰り返すほうが、丁寧にゆっくり塗り進めるより、ムラなく全体が仕上がるのです。得られる成果は緻密なものではないかもしれませんが、日本人は仕上がり感、出来にこだわりすぎる傾向があり、これが日本の30年の経済停滞の原因にもなっていると思います。
90パーセントの確実性が確認されてからプロジェクトを正式に発足させる、というような判断を続けていては、時代に乗り遅れてしまいます。教育でも仕事でも可能性を高める方向に物事を進めないと、世の中の変化の速度に間に合いません。テンポが速ければ、修正も早くできます。
齋藤孝
明治大学文学部教授