江戸時代、現代よりも高水準で行われていた寺子屋教育

江戸時代までの子どもの教育は、剣術と素読を中心としたシンプルなものでしたが、声に出して暗唱し、体を使うなど、身体性という点では優れた面がありました。

勝海舟の父親・勝小吉の自叙伝『夢酔独言』には、剣術と素読が男の子の教育の中心だと書かれています。論語を暗唱しながら、寺子屋から家に向かうのですが、こんな小学生は今では考えられません。

寺子屋のテキストであった『実語教』や『童子教』を見ると、漢文です。国語教育に限って言えば、当時のほうが今よりも水準は高かったと言わざるを得ません。

質の高い文章を音読し、暗唱して体にしみこませ、剣術によって腰と肚感覚を養う。身体感覚を重視した教育が、強くてしなやかな自我を作り、人間関係の良い距離感、間を身に付けることにつながったのです。

明治時代、学校の急速な普及により失われたもの

明治時代に入ると、初代文部大臣となった森有礼を中心にして学校制度が整備され、わずか2、3年の間に、日本全国に1万校から2万校もの学校ができ、近代的なカリキュラムにあっという間に移行しました。

日本人の恐ろしいまでの学校に対する適応力が発揮され、国民全体の学力が底上げされたことで、その後日本の国力が上がり、経済や生活状況は改善されていきます。

それ自体は良いことでしたが、そこで生じた弊害の最たるものは、身体性あるいは身体感覚が失われていったことです。他者との心地よい関係も、強くてしなやかな自我も、身体感覚の支えがあってこそ成り立つものです。身体感覚を取り戻すために、簡単にできることを探っていきましょう。