現代は「タイパ」という言葉の台頭が表す通り、無駄をどれだけ省けるか? を重視する傾向があるように思います。ですが「人間関係」においては「ともに無駄な時間を多く過ごすことで、絆の強さや永続性が高まる」と明治大学文学部教授の齋藤孝氏は説きます。本記事では癒されて、元気になる――心地よい「人間関係」を構築するコツに迫ります。
「タイパ」重視の〈現代人〉が見落としている「無駄な時間」が、何十年ともたらす<永続的なメリット>とは【明治大学文学部教授・齋藤孝が解説】
現代の大学生は「忙しく」「真面目」…「無駄な時間を過ごす」すすめ
夫婦、親子、恋人、親友は、長時間どっぷり浸からざるを得ない関係で、人間関係のコアにあたります。その周辺にたくさんの淡交の友がいるのが、もっとも豊かな人間関係だと言えます。
今の大学生たちは、私の学生時代に比べるとだいぶ忙しく、真面目になったこと自体は良いのですが、友達同士で無意味に過ごす時間が取れなくなってしまっている点が気になります。
生活のためのアルバイトもあり、なおさら余裕がないのでしょう。私は中学高校時代、よく父親と夕食後、将棋を指しました。お互い下手なのですが、 気が向いた時に共に時間を過ごすことで、親子関係が安定するのです。
家族関係がぎくしゃくしてうまくいかない、親子でコミュニケーションが取れないという悩みは、親子で「無駄な時間を過ごす」機会がなくなってきていることも一因ではないかと思います。
一緒に食事をし、テレビを見たり、ゲームをしたり、散歩や旅行をするなど、できるだけ同じ時間を共有することで、人間関係というものは安定し、ほどよい距離感が生まれるものです。
私が学生の頃は、来る日も来る日も同じ仲間で酒を飲んだり、麻雀をしたりしながら、延々と話をして、日々を過ごしました。一見「無駄な時間」を経たことで、何十年経っても変わらない、良い友達関係を築くことができたのです。
親密な友、淡交の友、距離を置く知人と色分けし、適切な距離を取る
多くの人とつながっていると「誰とでも親しくしなくては」という気持ちになりますが、自分のキャパシティをオーバーして人づきあいをすると、大きなストレスになります。馬が合わない人と、無理に友達づきあいをする必要はありません。
特に、会うと喧嘩になりそうな人やどうしても親しみを持てない人とは、意図的に距離を置くことも必要でしょう。無駄な争いをしてエネルギーを浪費するのは、もったいないことです。
友人・知人を、親密な友、淡交の友、距離を置く知人とある程度色分けし、それぞれの友人・知人と適切な距離を取りながら、自分に心地よい人間関係を築いていけばよいのです。
友人関係で大事なのは、心の交流によって癒され、元気になり、新しい発想が生まれ、自分のエネルギーが高められることです。交わりの頻度が低く 、心の交流もできなければ、もはや友達とはいえません。
雑多な人づきあいの中で疲弊し、家族関係までぎくしゃくしてしまう、という悩みを抱える人が多いのが、現代という時代です。
複雑で雑多な人間関係の中で自我を守るだけでなく、強くてしなやかな自我へと鍛えていく具体的な方法について考えてみたいと思います。