昨今はSNSの普及により「他人との適当な距離の取り方がわからない」という人が増えているようです。人間関係をうまく構築しようと意識するあまり、ストレスが大きくなることも。本記事では明治大学文学部教授の齋藤孝氏が、心地よい人間関係を構築するコツを解説します。
文豪・夏目漱石が「子どもが読むものではない」と、小学生読者にレスをした『坊っちゃん』『吾輩は猫である』ではない名作とは【明治大学文学部教授・齋藤孝が解説】
今は亡き、世紀の一流の人びとと語り合う方法
心が傷つきやすい人、人との間合いが取れない人は、同じ悩みを抱える主人公の話読んでみましょう。同じような悩みを持っている人の話を読むと、自分の状態を客観視できるようになりますし、自分よりもっとひどい人がいることを知るだけで、精神的に楽になることがあります。
本を通じて偉大な作家と対話することには 、じんわりとした温かさが感じられます。私はこれを、 「読書の遠赤外線効果」と呼んでいます。目に見えない遠赤外線によって、体の芯までじっくり温まる感覚です。
いつまでたっても冷えにくいのです。「死んだあとも魂が残る」こと、 「魂がつながり合う」ことの実感ができる、大切な機会です。読書の良さは、 「内なる他者との会話が起きる」ことにあります。
古くから読み継がれている文豪の文章は、読者にずしりと重いテーマを投げかけて魂を揺さぶります。そうして、自分の中で対話が起こるのです。
たとえばドストエフスキーの『罪と罰』。殺人を犯した主人公のラスコーリニコフに、読者は反発と同時に自分がその立場になったらと想像するでしょう。
ドストエフスキーの思考の深度が、読む側に入ってくるのです。読書は思考を深く掘り下げ、新たな地下水脈を見つける試みで、古今東西の教養人とつながる知の水脈です。
哲学者デカルトは、読書の効用について、著書の『方法序説 』(谷川 多佳子訳、岩波文庫)の中で、「歴史上の記憶すべき出来事は精神を奮い立たせ、思慮をもって読めば判断力を養う助けとなる」と述べ、
さらに、「すべて良書を読むことは、著者である過去の世紀の一流の人びとと親しく語り合うようなもので、しかもその会話は、かれらの思想の最上のものだけを見せてくれる、入念な準備のなされたものだ」と述べています。過去の一流の人々と対話することは、精神を奮い立たせ、判断力を養う助けにもなります。
身近にお手本となる人や同じ悩みをもつ人がいなくても読書が助けに
デカルトは、「手に入ったものは、すべて読破した」といい、実際に「もっとも秘伝的で稀有とされている学問」と言われる占星術や錬金術、手相術、光学的魔術に至るまで、入手できた書物は全部読んだということです。
身の回りにお手本になる大人がいないと、ガッカリする必要はありません。本を開けば、必ずや過去の一流の人たちと出会うことができるのです。
古典を自分の中に取り入れることは、一種の遠い星、北極星のような確たる存在を得ることです。遠くにあるものを目印にし、自分の相対的な位置を測ることができます。
遠くで同じ位置にそびえる大きな存在は、人生を歩んでいく上でよい目標物になります。それを手がかりにすると、今の自分がどこにいて、どこへ歩いて行こうとしているのかが見えやすくなります。