「笑い」を意識して生き続ける大阪人

大阪は、お笑いの水準の高さで知られています。『秘密のケンミンSHOW』(日本テレビ系列)というご当地紹介番組で、圧倒的に登場回数が多い都道府県が大阪です。大阪の人は生まれてから大人になるまでの間に、自分がボケなのかツッコミなのかを決めるそうです。

「自分は最近までツッコミだと思っていたんだけれども、実はボケのほうが合っているということに気がついた」という出演者がいましたが、年齢がなんと70歳。生まれてから70年、自分はボケなのかツッコミなのかを意識しながら生き続けている、というのが大阪人なのです。

NHK Eテレの『天才テレビくんhello,』という子ども向け番組で、漫才コンビのかまいたちと私が、小学生にツッコミを教えるという企画がありました。

子どもたちには、見たままをつっこむという基本的なツッコミから、何か自分なりのツッコミどころを見つけてつっこむ、というやや高度なツッコミ、自分でボケておいて自分でつっこむノリツッコミ、つっこみそうでつっこまない、「ノリつっこまない」まで、様々なお笑いの技術、基本姿勢を踏まえて練習、成果を披露してもらいました。

大事なポイントとして強調したのは、相手や周囲の人を嫌な気持ちにさせないよう配慮することです。周囲を笑わせても、誰かを傷つけてしまう笑いはいけません。

大学の授業に「お笑い」を取り入れ、学生の「メタ認知力」がアップ

この経験によって、笑いの技術を学ぶことで、誰も傷つけずに人を笑わせ、嫌なことを言われても上手にツッコミを返し場を明るくできるようになることがわかりました

大学の授業の中でも「芸人になる」回を設け、世界史などの各教科に基づいて、学生にネタ作りをしてお笑い芸人になり切ってもらい、皆の前で全力で笑いを取りに行くという授業を行っています。

笑いを取りに行くことは勇気がいるため、全員メンタルが強くなり、学生たちも「就職活動もあれよりはぜんぜん辛くない」「度胸が付きました」と言ってくれます。ショートコント『論語』やショートコント『源氏物語』という課題は大変充実しました。笑いのネタを探すという視点で物事を見ることは、「嫌な状況を客観視して乗り越える」効果をもたらします。

大学の授業で、お笑いのネタを披露した学生は、アルバイト先でクレーマーにもやもやしていたそうですが、コント化することで、気分が晴れるという効果がありました。嫌なことに巻き込まれている状態を、演劇でも見るように客観視することで、ストレスは軽減しむしろ面白さを感じ、第三者的視点を持つことで、冷静に対応できるようにもなります。

自分の置かれている状況を客観視するもうひとりの自分の視点を持つことを、メタ認知といいます。こうした笑いには毒の要素も、少し必要です。毒が必要というと「誰も傷つけない笑い」と矛盾するように感じられるかもしれません。しかし毒は上手に使うと、マイナスの要素をプラスに変える効果をもたらすものです。

『ちびまる子ちゃん』の永沢君に学ぶ「心地よい毒」とは

毒の盛り方がピリピリと効いていて心地よいのは、『ちびまる子ちゃん』(集英社)で知られる漫画家のさくらももこさんの作品です。

『ちびまる子ちゃん』の永沢君がその象徴ですが、癖がある皮肉屋で、独特の世界観を持ったキャラクターとして人気で、スピンオフ作品も出ているほどです。風変わりでブラック、癖が強く、しかし全体としては温かい、なんともいえない魅力があり、さくらさんは『サザエさん』に匹敵する、日本の漫画文化の一翼を担いました。

さくらさんのユーモアに触れると、人間の品というものには、上品さやお行儀のよさよりももっと高い次元があるのだと思わされます。