白内障は水晶体が白く濁り視力が低下する病気で、原因もさまざまです。50代以降になると多くの人に症状が現れるなど、めずらしくない病気であることから、「白内障の手術は簡単」というイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし、眼科医の窪田良氏は「決して簡単な手術ではない」といいます。本記事では、窪田氏の著書『近視は病気です』(東洋経済新報社)より一部を抜粋・再編集し、白内障の手術についての見解をご紹介します。
白内障手術はいつ受けたほうがいいか
こうした合併症は、熟達した眼科医であればめったに起こることはありませんが、ゼロにはなりません。それもあって、必ずしも白内障手術をしなければならないというわけではない、と私は考えています。手術が絶対ありきではないということです。
どこまで視力が落ちたら手術を決断するかは、その人の生活スタイルにもよるでしょう。激しく目を使うような生活なら、早く手術したほうがいいでしょう。外に出るのは散歩くらいでのんびり過ごしているなら、視力が下がっても、大きな負担をかけてまで手術をする必要はないかもしれません。
私は必ず、何人かの先生に聞いてみてほしいと伝えています。三人聞いて、三人とも手術したほうがいいということであれば、したほうがいい。そうでないなら、きちんと理由を聞くことです。
一方で、あまりに白内障が進むと、手術がしにくくなるフェーズがあることも知っておいたほうがいいかもしれません。水晶体が固くなりすぎると、超音波の出力を相当に高めないと水晶体の中が砕けないので、周辺組織を壊すことがあり、目に障害が出るリスクが高まるためです。
また、網膜の状態によっては、見え方がそれほど悪くなくても、早めの白内障手術をすすめられる場合もあります。水晶体が濁るにつれ、外から目の中を見るのが難しくなって、眼底検査や、レーザー光線による治療がしにくくなることがあるためです。
そういう意味では、水晶体が濁ったままにしていると、十分な眼底検査ができないことで、何らかの網膜疾患を見落とす可能性もあります。
さらに言えば、白内障が進みすぎてからの手術だと、事前の検査だけでは目の状態の全容がよくつかめませんから、オペをしてみて網膜の病気がわかって「せっかく白内障を手術したけれど、期待したほどの視力が出なかった」というケースも起こりえます。
白内障は、50代を過ぎたあたりから始まります。50代の人にはほぼ何らかの白内障の症状があると思ったほうがいいでしょう。防ぎようはありません。どのくらいのスピードで進むのかの予測も困難です。
長時間にわたって外にいる人、太陽に激しく暴露されさまざまな波長の光をたくさん浴びて酸化ストレスがかかっている人、そして近視である人……そうした人は、白内障になるおそれも高まると考えられています。ほかにも遺伝的要因、外傷の有無、糖尿病の有無、喫煙の有無も関係があることがわかっています。
窪田 良
医師・医学博士