自分に都合のいいように考える

わがままで好き勝手な言動は周囲にとって迷惑ですが、「頭の中で自分本位に考える」のは、他人に不快な思いをさせることなく、自分が気持ちよくなれる手立てのひとつだと私は思います。

長年、家族や会社のために頑張ってきた人が、年を重ねて、人生の締めくくりの時期にいるとしたら、そこから先は、自分本位の考え方や生き方を楽しんでいいのではないでしょうか。

たとえば、定年退職してのんびりできると思ったのに、何だかんだと雑用があり、なかなかゆっくりできない……と愚痴る前に、「やることが何もないのは、かえってつらいものらしい。忙しいのはうれしいことだ」と考えてみればいいでしょう。

俳優の夏木マリさんは、60歳を過ぎた頃、仕事から帰ると「疲れた、疲れた」を連発していたそうです。ところが、それを聞いた家族から、「疲れた疲れたと言うけれど、忙しいのはありがたいことなんだよ」と諭されたそうです。それ以来、夏木さんは考え方を変えたといいます。

「どんなに疲れているときも『疲れた』と言わないようにしたの。半分、意地になって『ありがたい。ありがたい』って言うようにしていたんですよ。そうしたら、何だか素敵なことにいっぱい出合えて……。本当にありがたいと感謝しています」

夏木さんは、古希を越えた現在も大活躍の日々です。

反対に、ヒマでヒマでしょうがないとしても、「何もすることがなく、時間を持てあましているから、趣味の囲碁でも楽しむとするか。そういえば、駅前でポスターを見かけた囲碁倶楽部の様子でも見てこようかな」と考えれば、長年、描いてきた趣味ざんまいの生活を始めることができます。

持っている服は流行遅れのものばかり……と嘆くより、「今どきのアイテムをひとつアクセントにすれば、おしゃれに見えるかも」と、ちょっとした工夫を加えて、ワクワクしてもいいでしょう。

年を重ねれば、若いときよりも食事の量が少なくなるのは当たり前ですから、「この先は量より質の食事を楽しもう」と考えればいいのです。なにしろ「ひとり暮らし」ですから、家族に迷惑をかけることもありません。誰かに遠慮したり、気をつかったりする必要はなく、自分の思うままの日々を過ごせるのです。

100歳以上の人を対象とした調査で、大多数の人が「今が一番幸せ」「不安なことは何もない」と思っていたそうです。そんな100歳を迎えるためにも、まずは「今が楽しい」と、とにかく自分に都合よく考える習慣をつけたいものです。

保坂 隆
保坂サイコオンコロジー・クリニック院長