「定年後、年金だけでは暮らせない」というのが定説になりつつある昨今ですが、「現役時代に少なからず稼いだわけだし、定年後は思い切りセカンドライフを楽しみたい」と考える人も少なくないのではないでしょうか。再雇用の誘いを断り、「完全リタイア」を決断した大西さん(仮名)もその1人です。しかし、「老後の夢」を叶えるためには、予想以上にお金がかかるようで……。定年後に再雇用で働く場合と、そうでない場合、家計収支は、どれだけ違ってくるのか、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、事例をもとに解説します。
「退職祝いにベンツ」の夢を叶え、悦に浸っていた年収1,200万円の63歳・元エリートサラリーマン。〈特別な年金〉欲しさに再就職を拒否も…2年後もらえる年金受給額に撃沈【FPの助言】
「夢のベンツ」が大きな負担に…FPが行った「2つ」の提案
大西さんから一通り話を聞き、FPはまず、大西夫妻の毎月の生活費を洗い出すことにしました。
<生活費の内訳>
・住居費:2万円
・食費:6万円
・医療費:1万5,000円
・水道光熱費:2万円
・交際費:4万円
・通信費:1万5,000円
・車(ベンツ)の維持費:3万円(メンテナンス、自動車税、自動車保険)
・その他:4万円
合計……24万円
直子さんのやりくりのおかげで、大西夫妻は大きな浪費もなく、生活費はある程度抑えることができています。ただし、車の維持費が高額で、これが毎月の家計に大きな負担をかけていることがわかりました。
この状況を踏まえ、FPは大西夫妻に下記の2つの提案を行いました。
1.支出の見直し…車の買い替えで、維持費は月2万円減
「生活の大きな負担になっているベンツを、コンパクトカーに買い替えてみませんか? コンパクトカーであれば、維持費は現在の3分の1程度まで抑えられます」。
積年の夢だったベンツを買い替えろと言われ、最初は手放すことを躊躇していた大西さんでしたが、隣にいた直子さんの熱心な説得に観念し、最終的にコンパクトカーへの買い替えを決断。
そうすると、維持費は2万円削減となるほか、通信費や食費といった項目についても、無理のない範囲で見直し、1万円ほど削減。その結果、毎月の生活費は21万円になりました。
2.給与収入の確保
FPは続けて、大西さんに「可能であれば働き、給与収入を得ることをおすすめします」とお伝えしました。
「いまある資産2,000万円も、このままの生活を続けていると65歳の年金受給までにどんどん目減りしてしまいます。これを遅らせるためには、月に10万円程度の収入を確保できると心強いです」。
再雇用を断った手前、こちらについてもためらっていた大西さんですが、健康面や体力面には自信があるそう。検討の末、アルバイトで月に10万円程度の収入を得ることにしました。
家計を見直したあとの大西夫妻の家計収支は、まとめると下記のようになります。
■収入:月10万円(アルバイト)
■支出:月21万円
収支……▲11万円
この結果、毎月の赤字を11万円まで圧縮することができそうです。
なお、大西さんは64歳から「特別支給の老齢厚生年金」を年間130万円受給できます。ただし、息子さんが来年結婚予定とのことで、このうち100万円は子どもの結婚資金に充当することにしました。
このペースであれば65歳までに264万円の資産が減り、資産は残り約1,740万円になる見込みです。
65歳からは、夫婦で手取り22万円程度の年金を受給できます。健康状態にもよりますが、加えて65歳以降も月に7~8万円程度の収入を得られれば、約3年で現在の資産2,000万円まで回復できるでしょう。