「定年後、年金だけでは暮らせない」というのが定説になりつつある昨今ですが、「現役時代に少なからず稼いだわけだし、定年後は思い切りセカンドライフを楽しみたい」と考える人も少なくないのではないでしょうか。再雇用の誘いを断り、「完全リタイア」を決断した大西さん(仮名)もその1人です。しかし、「老後の夢」を叶えるためには、予想以上にお金がかかるようで……。定年後に再雇用で働く場合と、そうでない場合、家計収支は、どれだけ違ってくるのか、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、事例をもとに解説します。
「退職祝いにベンツ」の夢を叶え、悦に浸っていた年収1,200万円の63歳・元エリートサラリーマン。〈特別な年金〉欲しさに再就職を拒否も…2年後もらえる年金受給額に撃沈【FPの助言】
深刻な表情の妻から見せられた「預金通帳」
ある日のこと、妻の直子さんが深刻な表情で言いました。「ねえあなた、これを見て欲しいんだけど」。大西さんが預金通帳を見ると、5,000万円あった預金が、なぜか2,000万円まで目減りしています。
「これはいったいどういうことだ!」と大西さんは妻に詰め寄りましたが、「それは私のセリフです」と、妻は大西さんに、この3年間でかかった具体的な支出の内訳を説明しました。
<支出の内訳>
・ベンツ購入:800万円、維持費(3年間):200万円
・リフォーム代:1,000万円
(内訳:屋根・外壁、キッチン、浴槽、トイレ、耐震補強など)
・国内旅行(半年に1回): 150万円(25万円×6回)
・その他夫婦の支出(3年間):850万円
合計……3,000万円
退職記念に買った愛車のベンツには、実は思わぬ落とし穴がありました。見た目や乗り心地はいいものの、外車特有の高額な修理費と維持費が、想像以上に大西家の家計を圧迫する事態となっていました。
さらに大西さんは、自宅のリフォームに1,000万円もかかっていたことも把握していませんでした。気になる箇所があるたびに業者を呼んで修繕していたため、費用が積み重なり、高額になっていたようです。
生活費については、浪費しないよう心がけていた大西さんですが、給与収入がないことから、資産は毎月減る一方。直子さんも、あまりの支出ペースの速さに、不安になりつつも、色々と口をはさむと、すぐに不機嫌になる夫と話し合いをするのが面倒で、つい後回しにしてしまっていたのでした。
「ちょっと安易に考えすぎていたかもしれないな……」
わずか3年で資産が3,000万円も減ってしまったことに、大西さんは大きな焦りを覚えました。
このままではまずいと感じた大西さんですが、ふと「もう少しで年金がもらえるようになるから、生活の足しになるんじゃないか」と希望を持ちます。
これまできちんと「ねんきん定期便」を確認してこなかった大西さんですが、直子さんが「ねんきん定期便」を引き出しに保管していたことを思い出し、それを取り出してみました。
自身の年金額をみた大西さんは、衝撃を受けます。「えっ! こんなに少ないの?」
年収1,200万円だった大西さん、年金受給額「290万円」に衝撃
「ねんきん定期便」を見ると、65歳から受給できる大西夫妻の年金額は
夫:210万円(老齢基礎年金+老齢厚生年金)
妻:80万円(老齢基礎年金)
合計290万円
と書かれています。月額に直すと、22万円程度になる見込みです。
「長い間、高額の厚生年金保険料を納めてきたのに、もらえる年金はこの程度なのか……」と大西さんは肩を落としました。
このままでは残りの資産がどんどん目減りし、枯渇してしまうかもしれない……焦った大西さんは、直子さんを連れて、以前両親の相続時にお世話になったFPに相談することにしました。