中国工業情報化部傘下の研究機関が4月1日、「中国低空経済発展研究報告(2024年)」を発表しました。推計では、2023年中国の低空経済の規模が5,059 億 5,000 万元(約10兆6,250億円、1元=約21円)に達する見込み※といいます。低空経済とは、高度1,000メートル以下の空を活用する新技術で、ドローンによる配送、空中タクシー、ドローンによるインフラ検査などを指します。中国政府の報告書で今後の重点産業として名指しされるなど、中国で注目を集めている産業分野です。ジャーナリストの高口康太氏が低空経済の今を解説します。
空飛ぶクルマが現実に! “低空経済”元年への期待

間近に迫る「空の革命」

米アマゾンがドローンによる配送計画を発表したのが2013年、世界で初めてeVTOLの量産許可を取得した中国の企業「億航智能(おくこうちのう)」の計画発表が2016年。当時は数年以内に空の革命が起きると騒がれましたが、その期待よりも現実はだいぶ遅れることになりました。ですが、この間に制御ソフトやモーター、バッテリーなど核心技術の向上は続き、ついに一般利用が目に見えるところに近づいてきました。

 

2024年のパリ五輪、2025年の大阪万博では、空飛ぶクルマとしてeVTOLのデモや一部旅客輸送が予定されており、私たちの目に触れる機会が今後、急速に増えるでしょう。

低空経済に一気にゴーサイン、中国の一大決心

世界各国でドローン活用やeVTOLの開発が進められていますが、その中でも中国の勢いには驚くものがあります。中国は一般用ドローンで世界シェア70%超を誇る巨人、DJIを筆頭に数多くのドローン企業があります。

 

また、無数のセンサーから得た情報をコンピューターが判断して自律飛行するドローンは、技術や部品、ソフトウェアなど多くの面でスマートフォンと共通しています。「空飛ぶスマホ」と呼ばれるゆえんです。

 

そのため、中国は低空経済確立に向けて優位なポジションを持っているのですが、もう一つ、大きいのが新技術の大胆な実験を許す風土です。昨年、ある自動運転ベンチャーを訪問したのですが会社周囲の公道は特別な認可がもらえたとのことで、一般の車と混じって自動運転車が走っていました。

 

まだまだ危なっかしい動きでいつ事故が起きても不思議ではないとみているこちらが不安になるほどでしたが、このあたりの大胆さが中国からユニークなプロダクトがでてくるヒミツなのでしょう。

 

ドローン修理教室。2019年10月、広東省深圳市の農業ドローンメーカー「イーグル・ブラザー」本社にて筆者撮影。
ドローン修理教室。2019年10月、広東省深圳市の農業ドローンメーカー「イーグル・ブラザー」本社にて筆者撮影。

 

技術的な課題と同じぐらいに重要なのが法的整備です。技術的には安全が確保されても、関連する法律が整備されなければ低空経済は実現しません。中国は国全体で社会実験を行っているとまで言われるほどに、アグレッシブにさまざまな技術を試しています。

 

低空経済においても、中国のイノベーションシティとして知られる広東省深圳市では、ドローンによるフードデリバリーの実験が認可されるなど、大胆な取り組みを続けてきました。

 

そして、機が熟したとみた中国政府は低空経済に一気にゴーサインを出しました。2024年1月1日施行の「無人操縦航空機飛行管理暫定条例」、「民用無人操縦航空機運航安全管理規則」です。

 

これは低空経済に使われる機体の認可、メーカーの責務、運営企業の認可や保険加入などの義務、飛行禁止区域の設定、フライト許可が必要になる場合の要件などが定められています。これによってどのような条件を満たせばいいのかが明確になりました。