(※写真はイメージです/PIXTA)

パワハラ、セクハラ、カスハラ…。近年ではさまざまな「ハラスメント」が知られるようになりましたが、クリニックは「ドクハラ(ドクターハラスメント)」に注意が必要です。ドクターがうっかり放ったひと言が、患者様を深く傷つけ、怒りを買うようなことになれば、いまやSNS等で瞬く間に拡散され、集患への大きなダメージになりかねません。どうやって防げばいいのでしょうか。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

うかつなひと言が招く、「患者数激減」の恐怖

近年では、さまざまなハラスメントが周知されるようになりましたが、医師として気をつけなければならないのが「ドクターハラスメント」です。

 

ドクターハラスメントは、医師の接遇について取り上げられることが多く、とくに問題視されるのが、患者様とご家族への説明の際に、事実の羅列と医師の一方的な意見を押し付ける「パターナリズム」です。

 

近年の医療提供は、患者様やご家族に治療の選択肢をいくつか提案したうえで、それぞれのメリット・デメリットをしっかりと説明し、同意を得て医療を行う、患者様・ご家族主体の流れとなっており、上記のようなパターナリズムには、患者様側はとくに敏感になっているといえます。

 

最近では、患者様側がクリニックで医師の言葉に傷ついたり、不当な待遇を受けたと感じたりしてネガティブな印象を持ったとき、SNSやさまざまな掲示板へ投稿することが多くあります。そのような投稿の多くは、クリニックや院長、当医師の実名を挙げ、なにをいわれたのかを具体的に投稿して「ドクターハラスメントだ」主張するものです。現在では、このような行動は珍しくなく、書き込まれる内容も、実際より強調されていることがしばしばあります。

 

インターネット上で容易に目的地を探せるGoogle Mapは、多くの人が利用しているうえ、評価やコメントが共有される仕様となっています。ここに最低評価が多数寄せられると、患者数の減少など、経営面に影響が出ることも十分考えられます。

ドクハラ発生の背景には、「医師の勘違い」あり

では、医師の言動を「ハラスメント」にしないためには、どんな方法があるのでしょうか。

 

ドクターハラスメントの原因はさまざまですが、根底に医師と患者様・ご家族間のミスコミュニケーションがあることがほとんどだといえます。

 

「ドクハラ」と略される造語は、外科医師の土屋繁裕氏が生み出し、医療不信が叫ばれた1990年代に各種メディアで取り上げられたとされています。その後、次第にこの言葉と概念が一般市民にも浸透し、2006年には日本医師会が「医師による患者へのハラスメント」のコマーシャルを作成するまでになりました。

 

「ドクハラ」の言葉が誕生した当時からみれば、医師の高圧的・威厳的な態度や発言での接遇は減少していますが、それでも患者様の感情を逆撫でする発言は後を絶ちません。

 

その背景に、医師自身の「勘違い」があるといえます。医師国家試験を卒業した医師は、研修先の病院の先輩医師から2年間「お客様扱い」をされ、院内のスタッフや他業者からも「お医者さま」「先生」と呼ばれて下にも置かない扱いを受けます。すると、技術・知識が未熟にもかかわらず、偉くなったと錯覚する者が、一定割合出てきます。そんな人物が、患者様やご家族ばかりか、ほかのスタッフたちにも敬意を払わず、傲慢な言動を取るようになるのです。

 

最近では、態度のよくない研修医等に先輩医師が指導・改善を試みると、「パワーハラスメント」として病院上層部に通報されてしまい、指導医のほうが始末書を書かされる…といったケースも発生しており、コミュニケーションと医療経済を体系的な指導をされる機会が少ないのが現状なのです。

ドクターが無意識に放った言葉が患者様を傷つけ、激しい怒りを買うことも

それでは、実際にあった、ドクハラと考えられるセリフを挙げてみます。

 

「どうせ鼻汁吸引をしたって無駄。意味のないケアはしないように」(小児科)

具合が悪い子どもを抱えながら、先行きが見えず不安を感じている母親に対し、「どうせ」という接頭語に加え、親心から行ったケアが無駄であると一刀両断。このような対応をされれば、必死の訴えを踏みにじられたと感じ、悔しさや怒りを覚えることになります。

 

こうしたひとことが原因で「こんなにひどいことをいわれた」「受診しないほうがいい」と、ママ友のネットワークやSNSに拡散され、受診患者が一瞬で激減したクリニックもあります。

 

「どうせ」「だって」「でも」といった、「だ」行の接頭語は患者様が不快を感じやすいため、会話をするうえでは注意を払うことが重要です。

 

「どうしてそんな病院にずっとかかっていたんだ」(呼吸器内科)

これまでの担当医への非難は、これまで受けてきた治療や検査がすべて無駄だったように感じられ、場合によっては医療機関選びのセンスや人格までも否定されたとも受け取られかねない、衝撃的な言葉だといえます。

 

患者様のこれまでの経過を傾聴・尊重するなら、これまでの治療経過などをすべて受け止めたうえで、「もしよければ…」というくらいに謙虚なスタンスで、新たな治療プランを提案しましょう。また、このような全否定の言動は、プライベートでも注意を払う必要があるといえます。

 

「検査内容のいちいち細かいことまで知らなくてもいい」(呼吸器内科)、「これから紹介して受ける手術のことは知らなくていい」(消化器外科)

患者様があれこれと知りたがるのは、これから受ける医療に不安があるからです。医師が「説明義務」を果たさなければ、当然ですが、不安・失望が強くなります。

 

説明する場合は、まず簡潔にまとめの部分を伝え(できれば文書、図等も添える)、その後に詳細を懇切丁寧に説明するよう、習慣化しましょう。些細なことであっても、医師と患者様との間には、考えに温度差があります。質問を無下にすれば、立場差によるハラスメントの扱いとなりかねません。

 

「このカテーテルを抜いて、苦しませてあげましょうか」「排痰の機械を買うってことは、がんでいえばモルヒネみたいなもの。後戻りできませんよ」(いずれも在宅医療)

これらの発言は、医師という立場上の優位性をもって、患者様を追い込んでいます。少しでも苦しみやつらさから解放されたい、最後まで望みを持ちたいという、患者様やご家族の切実な思いを踏みにじる、ひどいドクハラ発言だといえます。

 

このようなドクターハラスメントと捉えられる言動は、医師のエゴからくる無神経さによるものが多いといえます。重要なのは、医師にはそのつもりがなくても、患者様やご家族の主観や感情によって「ハラスメント相当」とみなされることがあるという点です。正直で熱意がある医師であるほど要注意だとも言えます。

 

医師は、患者様・ご家族と価値観や考え方が異なることを認識したうえで、患者様の背景を尊重し、ひとりひとりのテーラーメイドなコミュニケーションを心掛けることが大切であり、自分の家族を診療するくらいの丁寧な気持ちで臨むことが重要です。

 

とくに「クリニック経験」が短い医師は、大病院とクリニックの機能の違いを認識し、細心の注意を払った対応を心掛けてください。

 

 

武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師