(※写真はイメージです/PIXTA)

医師は、高い年収を得られる職業の代表格です。詳しく見ていくと、病院などに所属して給与を受け取る「勤務医」であるか、自分自身で経営を行う「開業医」であるかによって平均年収は異なります。また、診療科によっても年収の違いがあります。勤務形態や年収の違いによって、差し引かれる社会保険料や税金などにも影響があるでしょう。ここでは、開業医の手取り年収について解説します。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

開業医の平均的な年収

2023年11月に公表された厚生労働省の第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)の調査結果によると、2022年度の開業医の平均年収は2,633万4,633円、勤務医の平均年収は1,461万739円です。

 

医師の平均年収は、勤務する病院の経営形態によっても異なります。同調査をもとにまとめた、勤務医とその医療機関の代表の役職である病院長の平均年収は以下の通りです。

 

出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」
[図表]勤務医と病院長の平均年収比較 出典:厚生労働省「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」

 

上記の調査では、最も平均年収が高いのは診療所の病院長です。医師は、医療法人の勤務医の平均年収が最も高くなっています。

 

開業医の平均年収は、勤務医の平均年収の1.3倍から3.1倍以上にもなっています。かなり高い水準の収入であるといえるでしょう。しかし、開業医は、経営の責任やリスクは大きくなります。医師としての仕事だけでなく、経営やスタッフの管理などにも時間を充てなければなりません。

 

医療機器など設備準備費用、スタッフの給与、家賃、光熱費、広告のための費用など収支を把握する必要があります。開業医自身の業務負担が大きくなる可能性はありますが、経営が安定すれば、勤務医より高い水準の年収を得ることができることができます。自分の理想とする医療を行うことができるなど、メリットも大きいと言えるでしょう。

診療科による開業医の平均的な年収の違い

医療機関の診療科は大きく分けて、外科系、内科系、他科系に分類することができます。一般的には、内科系勤務医の年収水準より外科系の勤務医の年収水準のほうが高いといわれています。

 

年収の違いの主な要因は、働き方や働く時間の長さの違いによるものです。外科系は内科系と比べると緊急性が高いことが多く、長時間の手術や術後管理を行うので、勤務時間が長時間になりやすい傾向があるためです。さらに、手術を行う医師には高度な専門性や技術が求められる、外科医の数が少ない、などから年収が高めになっています。

 

内科系の診療科は、外科系と比べると労働時間が短い傾向にあるため、年収水準は外科系よりも低めになります。

 

では、開業医の診療科による年収の違いを見てみましょう。ここでも、厚生労働省の「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」から、2022年度の内科開業医、整形外科開業医、皮膚科開業医の平均的な年収をご紹介します。

 

◆内科開業医

平均的な年収は、2,759.5万円です。内科は患者数の多い診療科でクリニックの数は不足しているといわれています。患者に寄り添った対応が大切な診療科です。

 

◆整形外科開業医

平均的な年収は、2,722.9万円です。継続的な治療を必要としますので、リハビリテーション科とともに重要性が上昇している診療科です。

 

◆皮膚科開業医

平均的な年収は、2,421.0万円です。皮膚科医は増加傾向にあります。患者の獲得競争が激しくなっているので、高額な設備投資が必要な場合があります。

 

年収から手取り年収を推察

開業医の平均年収は、勤務医の1.8倍以上です。では、手取り年収はどのくらい受け取ることができるのでしょうか。

 

厚生労働省の「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)」から開業医の平均年収を紹介しました。この数値は、医療機関の医業・介護収益から医業・介護費用を差し引いた損益差額から求めた数値です。

 

個人経営のクリニックの場合は、年収から差し引くものは、国民年金保険料・医師国民健康保険料(扶養家族の保険料も含む)、介護保険料、所得税、住民税、となります。

 

開業医(45歳)、妻(43歳、専業主婦)、長男(15歳)、長女(10歳)、初年度の年収2,000万円と仮定します。そうすると、

 

2,000万円-143万9,520円(社会保険料控除)-48万円(基礎控除)-65万円(青色申告控除)=1,743万480円(課税所得)

 

1,743万480円-421万6,058円(所得税)-175万3,048円(住民税)=1,146万1,374円(手取り年収)

 

手取り年収は年収の6割弱になるようです。また、損益差額から求めた上記の平均年収の数値は、開業医の報酬となる以外に建物や設備に改善を行うための内部資金に充てられることが考えられるとされています。手取り年収は思ったより少ないと思われるかもしれません。

さらに年収を増やすことは可能

開業医の平均的な年収や手取り収入について解説いたしました。平均的な年収以上を目指したいと考える方もいらっしゃるでしょう。医療保険制度を用いない自由診療を行う、好条件の立地を選ぶ、業務の効率化を図る、経営規模を拡大する、などいくつかのポイントがあると思います。

 

その一方で、目先の利益ばかりにとらわれてしまうと安定した経営は実現できない可能性があります。ご自身の医師としての気持ちや地域の患者ニーズを正しく把握することが、まずは大切ではないかと思います。

 

 

参考文献

厚生労働省  第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和5年実施)(https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/24_houkoku_iryoukikan.pdf

 

東京都医師国民健康保険組合 保険料について
https://www.tokyo-ishikokuho.or.jp/kanyu/hokenryou.html

 

国税庁 No.1199 基礎控除
(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1199.htm)

 

 

藤原 洋子
FP dream 代表FP