「個人事業主」として本格的に事業を始める場合、税務署へ「開業届」を提出する必要があります。受け取れるメリットや注意点について見ていきましょう。行政書士でリスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏の著書『老後のお金に困りたくなければ 今いる会社で「“半”個人事業主」になりなさい』(日本実業出版社)より、詳しく解説します。
「開業後1ヵ月以内に提出」が推奨されている〈開業届〉だが…退職後に独立しても、すぐには提出しないほうがいい「意外なワケ」【シニアキャリアコンサルタントが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

個人事業主として開業届を提出するメリットとは

個人事業主として開業届を提出することの主なメリットは次の通りです。

 

①節税効果の高い青色申告を利用して確定申告ができること

開業届とあわせて「青色申告承認申請書」を提出すれば、確定申告の際に青色申告を行なうことができるようになります。

 

簡単に言うと、きちんとした帳簿をつけて管理すれば、売上から以下の特別控除額を引くことができるという制度です(控除後の金額に税率が乗じられるので所得税が安くなります)。

 

特別控除の額は、記帳方式を簡易簿記とした場合には10万円、複式簿記とした場合で税務署の窓口で確定申告を行なう場合は55万円、e-Taxでの申告では65万円です。

 

家族に給与が払えるようになる

開業届を提出後に青色申告を行なうとき、事業において家族を従業員(青色事業専従者)として給与を支払う際に、その給与は全額を経費計上できます。

 

青色事業専従者給与(家族に給与が払える)の条件は、個人事業主と生計を1つにしていること、15歳以上で学生ではないこと、事業に6ヵ月以上従事することです。新たに家族を雇った日から2ヵ月以内に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出する必要があります。

 

赤字を繰り越せる

赤字が出たら、翌年の確定申告の黒字と相殺することができます(赤字の繰り越しは最大3年間)。

 

〈10万円以上30万円未満の高額な経費を1年で経費にできる〉

パソコンやコピー機など、長期的に使用する場合、通常10万円以上するものは「固定資産」として扱われ、その年の一括経費にすることは通常できません。これが青色申告なら、一括経費にできない固定資産の対象金額が30万円以上となり、一度に必要経費としてまとめられる額が大きくなります(合計で300万円まで)。

 

②銀行口座の開設手続き

屋号付き口座を開設する場合に開業届を提出していることが必要となることが多いです。

 

銀行によって手続き・取扱い・難易度が異なりますが、個人事業を始める際に、屋号(「リスタートサポート木村勝事務所」など)を名義とした銀行口座を開設できます。開業届を提出していることはどの銀行でもほぼ必須条件だと思います。

 

個人用の口座を事業用の口座として使用しても問題はありませんが、事業用とプライベート用の口座を分けたほうが管理しやすくなります。

 

“半”個人事業主の場合には、今まで勤めていた会社がクライアントになるので、あまり関係ありませんが、振込先の口座に屋号が付いていることで振込を行なうクライアント側の安心につながるかもしれません。

 

銀行によっては、インターネットバンキングの利用料が事業者扱いになり、ネットバンクの利用が個人口座に比べて割高になることがあります。実は、筆者もあるメガバンクで屋号付き口座を作りましたが、ネットバンクを利用する先には、プラスアルファの利用料がかかるため、ネットバンクは利用していません。

 

屋号付き口座開設に関しては、個人的にはマストではなく趣味の範囲という感じです。

 

③信用面のアップ(があるかも)

オフィス契約や融資の審査などで有利になる可能性が高いです。

 

“半”個人事業主の場合には必要ありませんが、個人事業の業種によっては、事務所の契約が必要な場合(士業の登録など)があります。そうした場合に申し込み時や審査時には、開業届の控えの提出を求められるケースがあります。