老後は、快適な施設でのんびりと余生を送りたい、と考える人も多いのではないでしょうか。70歳になったら、長年連れ添った妻と一緒に「老人ホーム」に入所することを計画中の山根さん(仮名)もその一人。しかし、定年退職の目前に、山根さんは妻からまさかの通告を受けることにー。神戸・辻本FP合同会社の代表である、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、夫婦間の「年金分割制度」について、詳しく解説します。
〈退職金2,000万円・年金月33万円〉の67歳・大手企業常務、“勝ち組老後”が一転。風呂なしアパート生活へ…〈怒涛の転落劇〉のきっかけとなった「年金機構からの通知」【FPの助言】
民間の有料老人ホームの場合、入居一時金で数千万円にも
FPは、山根さんの現在の生活スタイルや将来の目標などをヒアリングし、月々の家計支出を把握したうえで、厳しい現実を告げます。
「収入と支出のバランスが完全に崩れています。山根さんは、このままでは資産がどんどん目減りしていき、老人ホームどころの話ではなくなります。そのために、今所有している資産2,000万円を目減りさせないことを考えましょう。まずは、家計支出のなかで家賃が大きなウエイトを占めているため、この部分をもう少し抑えたいところです。また、食費も1人暮らしであれば、もう少し抑えられるはずです」
年金収入15万円に対し、毎月の支出額が25万円となり、毎月10万円の赤字です。民間の有料老人ホームの場合は、入居一時金で数千万円もの費用を要するケースも多いため、資産を目減りさせてしまうと希望する老人ホームを選択できないかもしれません。
また、仮に毎月の家賃を5万円、食費を2万円カットできたとしても、毎月の赤字は3万円発生します。そのため、可能であれば、無理のない範囲で労働収入を得ることも提案します。
山根さんは、有益な情報を教えてくれたFPに感謝を伝え、事務所を後にします。自宅に戻り、これまでの人生を振り返り、妻に対する自分の行いを深く反省しつつ、新たなスタートを切るべく、今後の計画を練り始めました。
その後、築古の風呂なしアパートに住むことに
その後、山根さんは、現在の家賃12万円のアパートから家賃5万円(共益費込み)の築古の風呂なしアパートに移り住みます。このアパートは、山根さんが通っている銭湯の近くにあり、毎日銭湯を利用するのであれば、部屋に風呂がなくても問題ないだろう、という判断でした。
また、配送の仕分け作業員としてのアルバイトも開始し、月に3万円ほどの労働収入も得られるようになります。
さらに、料理が一切できない山根さんでしたが、外食をできるだけ減らし、スーパーの惣菜や手軽にできるインスタント食品を活用することで、食費を7万円から5万円にカットでき、家賃と食費で総額9万円もの支出を抑えることに成功。それにより、26万円の生活費が17万円まで圧縮でき、そこに労働収入が3万円加わったことで、家計が一気に黒字に転換しました。
側から見ると、苦しい生活を強いられているようですが、夢の老人ホームに入居するため、「資産を減らさない」という目標がはっきりした山根さん。生き生きと、前向きな気持ちで日々を過ごしています。
現在は、仕事と家事、趣味の銭湯を楽しみながら生活し、将来、老人ホームに移ることを見越して、少しずつですが、ケアマネージャーに老人ホームについての情報を得ている山根さんでした。
辻本 剛士
ファイナンシャルプランナー
神戸・辻本FP合同会社 代表