老後は、快適な施設でのんびりと余生を送りたい、と考える人も多いのではないでしょうか。70歳になったら、長年連れ添った妻と一緒に「老人ホーム」に入所することを計画中の山根さん(仮名)もその一人。しかし、定年退職の目前に、山根さんは妻からまさかの通告を受けることにー。神戸・辻本FP合同会社の代表である、ファイナンシャルプランナーの辻本剛士氏が、夫婦間の「年金分割制度」について、詳しく解説します。
〈退職金2,000万円・年金月33万円〉の67歳・大手企業常務、“勝ち組老後”が一転。風呂なしアパート生活へ…〈怒涛の転落劇〉のきっかけとなった「年金機構からの通知」【FPの助言】
「3号分割」の場合、夫の合意なしに年金を分割できる
年金制度には、夫婦が離婚した際に、老齢厚生年金部分の保険料記録を分割できる制度があります。この年金分割制度には「合意分割制度」と「3号分割制度」の2種類があり、明美さんが今回請求したのが、3号分割制度でした。
「3号分割制度」とは、婚姻期間中の厚生年金保険料の納付実績を分割する制度です。婚姻期間中の厚生年金保険料の納付実績を、2分の1に分割できます。
3号分割制度を利用する際の要件は、次のとおりです。
・2008年4月以降の婚姻期間である
たとえば、2002年から結婚生活が開始し、結婚当初から妻は専業主婦で第3号被保険者として生活を続け、その後、2025年5月1日に離婚したとします。この場合、2008年4月1日から2025年5月1日までの期間にかぎり、3号分割制度が適用されます。
この3号分割制度では、夫の合意は必要なく、自身で年金事務所に行き、「標準報酬改定請求書」を記載し、提出することで成立します。ただし、分割請求は、離婚した日の翌日から2年を経過すると請求できなくなる点に注意が必要です。
2008年4月1日以降の厚生年金記録が2分の1に分割されることとなった結果、当初月26万円ほどあった山根さんの年金額が18万円程度と約3割減少しました。手取りでは月15万円ほどです。
山根さんは、年金の3号分割制度について知らなかったため、驚きと困惑を隠せませんでした。資産と年金の多くを失った山根さんは、はじめて自身の置かれている危機的状況に気づきます。そして、このままではまずいと、親友の紹介で、ファイナンシャルプランナー(FP)に相談することにしました。
山根さんはFPに会うなり、元妻・明美さんから受けた仕打ちへの怒りをぶちまけます。「離婚してから一度も連絡なく、いきなり年金分割を請求するなんて、いくらなんでもひど過ぎる。事前に伝えてくれたら準備もできたのに」
FPは少し困惑した表情を浮かべながら、山根さんの話をひと通り聞き、今後の対策を話し合うことにしました。山根さんは、今までの生活スタイルや、70歳になったら老人ホームで暮らしたいことなど、自身の希望を余すことなく伝えます。そしてFPに、直近の家計支出をみてもらいました。
山根さんの月々の家計支出は次のとおりです。
食費:7万円
水道光熱費:1万円
通信費:1万5,000円
その他:3万5,000円